方丈記10

新宿方丈記・10「マリア」

1月のことになるが、ずっと見たかった映画をやっと見た。「ラスト・タンゴ」である。伝説のタンゴペア、マリア・ニエベスとフアン・カルロ・コペスのドキュメント映画。昨年から作り始めた新しい人形のテーマは、アルゼンチンタンゴ。いいタイミングで公開になったので是非にと思っていたのだが、タイミングが悪く見逃して、次の上映も見逃して、とうとう人形の方が先にに完成してしまった。もう諦めかけていたら、私の大好きな早稲田松竹に掛かるというので、今度こそはとやっとの鑑賞である。

1997年にコンビを解消してから、会うことさえ避けていた二人の、タンゴ・ダンスの遍歴が語られていく。聞き手は若き後継者たち。再現ドラマを織り交ぜながら、物語は進行していく。公私共にパートナーだったマリアとファン。栄光の裏側で展開する波乱の人生ドラマに、後継者たちも見ている私たちも言葉を失ってしまう。驚くのはマリアのタンゴへの情熱と純粋さだ。それがなければ、とても続けられはしなかっただろう。公私を別のものと考えるファンと、愛情というカテゴリで一つにしようとするマリア。どちらも間違ってはいない。ただ、考え方が違うだけだ。男はずるいとか、そんな簡単な言葉では片付けられない。根本的な相違と、それでも失われなかったお互いへの尊敬。泣いても傷ついても、自分を貫き通したマリアが清々しい。人生に残された時間も少なくなった今、それでも変わらぬタンゴへの愛。二人のタンゴ・ダンスは男と女のドラマそのままだったのだ。

なににも変えられない大切なものがあると、人は強い。ブレないし曲がらない。そして本当に美しいし、かなわない。




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