新宿方丈記・4「箱庭」
新宿に越してきた年の冬だったと思う。結構な雪が積もった日があった。予報だと大したことないはずだったのに、雪は静かに、でも延々と降り続け、ただでさえ大雨や雪に弱い東京のインフラは大混乱だった。つるつるの坂道をなんとか下り、コートの裾をびちゃびちゃにして出勤したのを覚えている。思いがけない雪に、うんざりと諦めと、そしてほんの少しだけ嬉しさと、複雑な気持ちになった。
その日の夜中、2時か、もっと遅い時間だったかもしれない。ふと窓の外を見るといつの間にか雪は止んでいた。思い切って窓を開けると、風もおさまり、外はまるで無音の世界みたいにしーんと静かだった。雪は音を吸い取ってしまうから静かなんだっけ?なんかそんな話、聞いたことがあるような気がするなあ。すっかり寝静まった街。明かりが点いている部屋もほとんどない。歩いている人も、通る車もなく、見渡す限り真っ白な通りの景色は、まるで箱庭の様だった。うっすらと、でも世界の全てを薄く覆い尽くすくらいに積もった雪。そのまま持ち上げて、そっと飾っておけそうな冬の箱庭。信号だけが冷たい空気に滲んでいた。待つ人もいないままに。
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