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新宿方丈記・6「青い影」

プロコル・ハルムの「青い影」を聴くと、何故だろう、いつもパーティの終わりが思い浮かぶ。高校生の頃、私が生まれた年にリリースされたこの古い古い曲が大好きだった。自分で編集した音の悪い(でも宝物の)カセットテープで、何度も繰り返し聴いていた。今でも手元に残っているこのカセットテープ、再生するとあの頃と同じ、ザラザラした音の悪い「青い影」を聴くことができる。いくらでもいい音で聴ける時代になったのに、あのカセットテープの音に敵うものはない。

私は頻繁にパーティーに出掛けるような青春時代を送っていたわけではないから、自分自身の思い出ではないのは確かだ。ただ、パーティと言ってもいわゆるパーティではなく、みんなで集まって花火をした帰り道や、明け方にライブハウスとかクラブから出て地上への階段を上っている時、遊びに来た友達がみんな帰った後に一人で後片付けをしている時…そういう空っぽの時間の一抹の寂しさが、「青い影」のオルガンの旋律とリンクして、私の脳に「パーティの終わり」という単語を登録してしまったのだと思う。

そして厄介なことに、本当のパーティの終わり頃になると、勝手に頭の中で「青い影」が流れ出すことがある。何にせよ、終わりは切ない。新しい始まりだったとしても、とりあえず切なくなるのは止められないし、あえて止めないようにしている。そうしないとスイッチが切り替えられないことも、生きている限りいっぱいある。また「青い影」が流れ始めたので、この日はワイングラスの赤い影を写真におさめて、静かに終わりのスイッチを入れた。


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