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新宿方丈記・40「続いていくもの」

冬の朝、布団から出た瞬間の、火の気のない部屋の空気が苦手だ。だったらエアコンのタイマーをかけておけば済むことなのだけれど、暖かい部屋で健やかにいつまでも惰眠を貪ってしまいそうなので、怖くて実行できない。それにその冷たい部屋の空気が苦手だけれど、嫌いでもないのだ。朝とはそういうもの、と自分の中で納得しているのかもしれない。ほんの数時間前まで少なくとも夜だった名残は何処へやら、フィルターで濾過したような爽やかな空気がいつの間にか充満しているのが、朝だ。どんなに疲れていても、嫌なことがあっても、とりあえず一晩眠れば(たとえ眠れない夜だったとしても)次の日がやって来るのだ。それはどんなにありがたいことだろう。それが単純に昨日から今日になることもあれば、去年から今年になることもある。何かが始まったり終わったりもする。冷え切った冬の朝の空気はそれにふさわしい。情け容赦なく清々しいのは、時にありがたいこともあるのだ。

今年も人形を作っているうちに気がついたら年が明けていた。真夜中を過ぎ、床から深々と冷たさが伝わって来る。確か去年も同じことをしていたな、と気付く。やはり外は静かで、寒くて、去年が今年に変わり、夜が朝に変わろうとしていた。自分は同じ場所で同じことをしていたけれど、ほんの少しでも確実に先へ進んでいるのが実感できるから、多分無駄ではない1年だったんだろう。そして今年も同じように過ぎていくと思う。変わらないもの。それがしっかり自分の中にあれば、何がどうしようと周りがどうだろうとどうでもいい。何も変わらない。

朝の冷たい空気と一緒に、また、新しい一年が始まっていく。





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