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第二回 国産対艦誘導弾の歴史をざっくり追おうの会(ファミリー化の時代)

前回、ASM-1から始まった国産対艦誘導弾の歴史を17式艦対艦ミサイルまで追ってきました。今回は国産対艦ミサイルのこれからについて見ていくこととします。
将来の装備というのは今後どうなっていくかわかりませんし、断片的な報道や公開情報をもとにした「推測」の割合がどうしても増えてしまいます。あくまでも筆者個人の理解、解釈であることを予めご了承ください。

国産対艦誘導弾の系譜(筆者調べ)


12式地対艦誘導弾(改)と哨戒機用新空対艦誘導弾


平成28年度 事前の事業評価より引用

17式からの同時開発

哨戒機用新空対艦誘導弾と12式地対艦誘導弾(改)(以降新ASMと12SSM(改))は平成29年度~平成34年度初頭(2017年~2022年)に試作、平成30年度から平成34年度末まで試験を行うというスケジュールで進む事業です。17式(事業開始当時は新艦対艦誘導弾)の試作成果及び技術的知見を応用したファミリー化を前提とした誘導弾事業です。
地対艦誘導弾と哨戒機用誘導弾という異なる誘導弾を一つの事業に統合して進めることが本事業の特徴となります。これにより発生しうる技術リスク等を一元管理し、効率化を図っています。

想定される能力

この2つの誘導弾は17式と同様に射程の延伸が目指されています。それに伴い、重量・サイズともに従来の誘導弾より大型化することが想定されていました。
また、12SSM(改)は島嶼防衛を強く意識した誘導弾となっています。

88式地対艦誘導弾システム(改)の開発(事後評価)より引用

12式SSMの開発では従来通り内陸部から誘導弾を発射し、誘導弾が地形に沿った飛行をする様子が示されています。一方で12SSM(改)では島嶼部に展開する様子が描かれ、レーダー車・指揮統制装置・発射機が異なる島に展開している様子が見て取れます。

哨戒機用新空対艦誘導弾のみ装備化へ

元々の開発スケジュールで2022年度末に試験が完了する本事業ですが、2023年度予算に「従来の91式空対艦誘導弾に比べ、射程等大幅に向上した誘導弾」として哨戒機用新空対艦誘導弾調達の予算が計上されました。
一方で、12式地対艦誘導弾(改)は装備化されず、後述する12式地対艦誘導弾(能力向上型)にその事業が引き継がれました。令和2年(2020年)に閣議決定された「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」の中で能力向上型の開発が示され、この時点で12SSM(改)の事業が正式に終了したといえるでしょう。

新対艦誘導弾

ここで12式地対艦誘導弾(能力向上型)ではなく新対艦誘導弾について先にまとめたいと思います。

令和5年度防衛省予算の概要より引用

新対艦誘導弾の要素技術の研究

将来の対艦戦闘で有効に作用する誘導弾を開発するために開始した事業が新対艦誘導弾に関連する事業です。要素技術の研究は平成30年度~平成34年度(2018年度~2022年度)に研究試作を行うものとなっています。一部で中止報道がありましたが、事業は継続されました。2023年度予算内で「要素技術」が取れた形で予算が計上され、次のステップへ進みそうです。

新対艦誘導弾に求められること

新対艦誘導弾の要素技術の研究では
・長射程化
・高機動化
・低RCS化
が技術的課題として挙げられ、それを解決する研究が行われました。長射程化については一部報道で2000kmという射程が示されています。高機動化については過去に自民党の佐藤正久議員がTwitter内でバレルロールによって艦艇の近接防空火器を避ける説明資料を投稿していました。

また、哨戒機への搭載・VLSからの発射を狙うなどの特徴があります。
島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術(その1)の研究試作.pdf - Google ドライブ
軍事ライターの岩本三太郎先生がTwitterで公開されている「島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術(その1)の研究試作」の中で

「開発目標品の設計においては、哨戒機(P-1)より射撃する空発型を当初設計した後、そのマルチプラットフォーム化として戦闘機(F-2)発射型、車両発射型、艦艇発射型の設計を検討するものとする。その際、マルチプラットフォーム化を前提とした設計を行うことで、努めて変更部分を少なくするものとする」

という記述があります。12SSM(改)の事業評価内でも

(イ)機上発射化技術
現有品に比べて大型化したベースとなる誘導弾を制約の多い航空機から確実に発射する技術を確立する。

という記述があるように、航空機への搭載には重量やサイズなど制約が大きいのだと思います。もしかすると戦闘機よりも哨戒機のほうがより制約が多いのかもしれません。これらの情報から新対艦誘導弾は哨戒機への搭載を前提として開発していると考えられます。

哨戒機への搭載、VLS発射等は装備化にあたって変更される可能性がありますが、地上・艦艇・航空機(戦闘機も哨戒機も)とマルチプラットフォーム化をより追求した誘導弾が目指されています。

将来の主力となるか

新対艦誘導弾のもう一つの特徴として、川崎重工がプライムメーカーとなっている点があげられます。実は今まで紹介してきた国産対艦誘導弾はすべて三菱重工業がプライムメーカーとなっています。そういった意味でも従来の国産対艦誘導弾の系譜からは離れる全く新しい誘導弾と言えるでしょう。(もちろん今までの開発の歴史の上に成り立つものではありますが)
求められる性能も高く、時間をかけた開発がなされています。装備化、量産はまだしばらく先にはなるでしょう。

メーカーの変更、全く新しい誘導弾、徹底したマルチプラットフォーム・ファミリー化。従来の国産亜音速対艦誘導弾を一掃する、将来の主力となる対艦誘導弾なのではないかと個人的には睨んでいます。新対艦誘導弾の開発がASM-1のような「第二の始祖」となりうるか。個人的にとても注目しています。

12式地対艦誘導弾(能力向上型)

令和5年度防衛予算の概要より引用

(改)から(能力向上型)へ

前述したように、12式地対艦誘導弾(改)は装備化の段階へ進まず、12式地対艦誘導弾(能力向上型)(※以降12SSM-ER)へ引き継がれました。この際、12SSM(改)と同時期に進んでいた新対艦誘導弾の要素技術の研究から低RCS化技術や長射程化技術が取り入れられることとなりました。その結果、12式と言いつつも見た目が大きく異なる全く新しい見た目の誘導弾となったのです。

12SSM-ERに求められること


令和2年度 政策評価書(事前の事業評価)より引用

12SSM-ERは12SSM(改)以上の長射程化、そして低RCS化が目指されています。さらに、上図を見ると発射機が島嶼部に分散して設置され、それぞれが衛星を介して接続されている様子が見て取れます。12SSM(改)以上に広範囲に部隊を分散して展開し、全体としての生存性を高められる可能性があります。
また、特徴的なのが衛星を介した誘導弾に対する目標情報更新機能です。長射程化に伴い、誘導弾が長時間飛翔することになります。その間に艦艇などの移動目標はその位置を大きく変えてしまいます。移動する目標を監視しつつ、その情報を発射後の誘導弾に伝達する必要が出てきます。亜音速・長射程ゆえ発生する問題を解決させるために取り入れられた能力でしょう。

令和2年度 政策評価書(事前の事業評価)より引用

さらに、国産対艦誘導弾として初めて対地攻撃機能が明示されました。従来の一部誘導弾でも中間誘導のGPSを利用した対地攻撃能力の可能性について噂されていましたが、防衛省としてはっきりと明示した形になります。侵攻された島嶼部への攻撃、敵基地攻撃等に活用されると思われます。

マルチプラットフォーム化と88式の呪縛

12SSM-ERは地上発射型だけでなく艦艇、航空機から発射するタイプも同時に開発されます。航空機発射型については哨戒機への搭載は想定されておらず、F-2への搭載が予定されています。12SSM(改)の時点で誘導弾が大型化すると示されていましたが、更に長射程化を目指した結果哨戒機に搭載できる限界を超えてしまったのではないでしょうか。
優秀な誘導弾ではありますが、実質88式地対艦誘導弾の派生モデルである現在の国産対艦誘導弾には限界があり、それ故の新対艦誘導弾の開発・哨戒機用新空対艦誘導弾の事業継続なのではないでしょうか。

早期装備化へ

12SSM-ERについては開発完了前の段階から量産が開始され、早期に装備化が行われるとされています。一部報道によると、まず数百kmの射程のものが装備化され、最終的には1000kmを超す射程を目指すとされています。12SSM(改)が装備化に進まなかった手前、早期に12式SSMより長射程の誘導弾が必要になるのでしょう。艦艇、航空機発射型の量産はしばらく先のなりそうですが、地上発射型は数年以内に我々の目の前に現れるかもしれませんね。

まとめ


・12式地対艦誘導弾及び哨戒機用新空対艦誘導弾
→南西有事に備え12式地対艦誘導弾及び91式空対艦誘導弾を代替するもの。→長射程化に伴いやや大型化。
・12式地対艦誘導弾(能力向上型)
→更なる長射程化、低RCS化を新対艦誘導弾の研究成果を生かして実現。
→さらなる大型化へ。
・新対艦誘導弾
→抜本的な変化による長射程化、低RCS化、高機動化を実現。
→高性能化を実現しつつ、哨戒機への搭載、VLSへの搭載を実現。

個人的にはこのような整理をしています。

緊迫する南西有事に対応するため、進化したミサイルの早期装備化と抜本的な性能強化を同時に目指しています。そのうえで、開発の短期化と効率化を図り予算の圧縮を図るため今まで以上のファミリー化が目指されています。
実際、将来的にどのような装備体系になるかわかりませんが、これからも国産対艦誘導弾の開発は続いていくことでしょう。安全保障政策の中核となる対艦ミサイル、今後も注視していきたい分野です。

本シリーズ、あと1回の更新となります。よろしくお願いします。

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