はるかわもここ

18きっぷ旅行記や、小説や、仕事のこと。

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マガジン

  • ハルダウン

    くらし。仕事や見た夢やひびのこと。

  • どこへでも行ける切符

    十九歳で、夏で、ケチだった。 狭い集合団地の片隅で育ってきた世間知らずの大学生が、ひょんなことから鈍行列車で博多からトウキョウを目指すことになった。 ゆっくりと過ぎてゆく景色の中で大学生が見つけた素敵なひとやものたちを記録する、ハートフル青春18きっぷストーリー。ほぼノンフィクション。

最近の記事

さざなみの街

砂浜に沈みかけた団地の夢を見た。海面が上昇し水浸しの公園で、子ども達が波に打たれて無邪気に遊んでいた。貧者はその街へ追いやられ、富ある者は立派な地盤の土地に住む。家賃は290円。あと数年と持たない街で、それでも無邪気に子ども達は遊んでいた。 汚い壁に描かれた数々の落書きの上に、蛍光塗料でハートを描く少女がいた。 《夜になると誰の声も聞こえなくなって、この街に残るのは、恐ろしいさざなみだけ。明かりのある頃はあんなに楽しかったのに、それでも夜は、私たちがもうすぐ終わる事をはっ

    • 喫茶ネコノテの不思議

      不思議なカフェ「喫茶ネコノテ」の夢を見た。 とっても美味しいオムライス食べたあと、ねこの店長がやって来て「お代は結構です。すでに頂いてるので」と言うのだ。 そういえば自分がなんでこんな所でオムライスを食べているのかが思い出せなかった。ただひどく落ち込んでいて、美味しいものが食べたいと思っていた。 いつもは廃墟のはずだったこの場所に突如現れた赤いレンガの小さな喫茶店。導かれるみたく、なんとなく入ってオムライスを頼んだ。とろとろのふわふわの、オムライスを食べたら、やわらな卵

      • 長く長い夢

        小学4年生の冬、父が自殺した。 白ごはんに胡麻塩を振り掛けながら、こち亀のオープニングを観ている時、母の携帯がけたたましく鳴った。母が獣のような悲鳴を上げる前から、嫌な予感がしていたがそれはやはり的中した。母は「どうしよう」「私のせいだ」「どうしよう」と震えながらベランダの前を行ったり来たりした後、その場に崩れた。「おとうさん、が、しんだって」漏れる呼吸でよく聞き取れなかったが、確かにそう言ったようだった。親戚が迎えに来るまで、近所のおばちゃんが駆けつけてくれて、うずくま

        • 秋の日

          かぎ編みのカーディガンを羽織るぐらいが丁度いい、ほんの少しだけ肌寒い秋の日だった。 職員寮は職場と同じ敷地内(というか事務所の真上)にあって、子ども達の声が聞こえてきてどうにも気が休まらない。だから休日はよく、特に用事もないのに近くの港まで出かけては、街ゆく人々を眺めて時間を潰した。 沿道の駄菓子屋で、チョコレート・ドーナツとサイダーを買って、夕暮れの海辺のベンチに腰を下ろした。渡船が出航した後の水面は静かに揺れていて、私はまたセンチメンタルになる。 近頃の私は

        さざなみの街

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          4本
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          2本

        記事

          002 アメフラシの荷造り

          青春18きっぷとは、春、夏、冬の長期休暇のあいだJRが発行しているきっぷである。 11,850円で5日間、JR区間内の日本中の普通列車が乗り放題になる。宮島フェリーなど、JRが運営する細々した乗り物にも乗ることができる。1日あたり2,370円。博多から小倉まで往復すればもう元は取れるぐらいの値段だ。 各駅の窓口で入手可能。まれに金券ショップで数日分だけ購入できる場合もある。期間内に使い切りそうにない人が日数の余ったきっぷを売り出しているのだ。 切符の名前はいかにも1

          002 アメフラシの荷造り

          001 青春18きっぷ

          「十八歳で、夏で、バカだった」筋肉少女帯、大槻ケンヂの名作「ロッキン・ ホース・バレリーナ」の冒頭を読みながら私は焦っていた。もう十九歳の夏だというのに、バカなことをひとつもしたことがなかったのだ。 狭い集合団地の片隅で私は育った。規則正しく並んだ無機質なコンクリート。無個性な風景。街には小さな病院、小さなコンビニ、小さな公園があって、わたしたちは、それだけでもう充分だった。不自由なことなど何ひとつなかった。 家の上にも下にも同級生が住んでおり、中学校に上がっても、変わり

          001 青春18きっぷ