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恐怖体験 「カツ、カツ」

われわれ二人が体験した地味~な恐怖体験です。
(書いた人:tonchay)

数年前の、夏から秋に変わる頃のことです。
当時私が付き合っていた彼女は学生でお金もなく、築40年過ぎの古びたコンクリート製アパートに住んでいました。私は夜遅くまでかかる仕事をしていたので、職場から程近い彼女の家によく寝泊まりしていました。

その日の帰宅も、深夜2時をまわっていたと思います。起きて待っていた彼女と遅い夕飯をとっていると、アパートの廊下から足音が聞こえてきました。カツ、カツという、硬質な、ハイヒールのような音です。仕事に疲れた若い女性がゆっくりと階段を昇る姿が思い浮かび、私は多少の同情と親近感を覚えました。
それから5分ほどして食事を終え、他愛ない話をしながら二人でくつろいでいるとき、妙なことに気がつきました。

 まだ足音が聞こえている。

足音の主はどこかの部屋に入る様子もなく、廊下と階段を歩き回っているようでした。始めは酔っ払いか不審者ではと思いましたが、規則的に響く足音からは人間らしさが感じられず、私は段々と気味が悪くなってきました。
彼女にそのことを小声で伝えると、何かに気づいたようで無言のまま廊下側の窓を指さしました。
見ると、廊下に面した窓が30cmほど開け放したままになっていました。
それが今にも室内を覗き込んでくるのではないか、という想像が頭をよぎりました。何かはわからないけれど、とにかく怖ろしいものが。
私は足音の主に気づかれないよう息を殺し、しゃがみながら窓のそばへ行き、そっと窓を閉めました。

10分ほど続いた足音は、だんだんと遠くなって消えていきました。

数年前にホラーゲーム「深夜廻」公式サイトの恐怖体験募集にこの話を応募したところ、入賞してかわいい缶バッジをいただきました。

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