見出し画像

ざくざく、とんかつ定食@しょうが亭

同僚がおいしそうなテイクアウトのお弁当がおいしいを食べていた。どこで買ったのかと聞くと「しょうが亭」だという。

名物は「大学定食」。東京大学や慶応大学といった東京の有名大学の名前が付けられた定食(これがテイクアウトできる)。昼休みを使って、その名物を食べるべくしょうが亭に向かった。

店内は小規模ながらもテーブルが余裕をもって配置されており、パーソナルスペースがきちんと確保されている。みちっ、とした席配置が苦手な私にはとてもありがたい。赤いチェック柄のテーブルクロスがすべての席に敷かれており「ザ・定食屋」感があたたかい雰囲気のお店であった。

メニューは壁に貼られているタイプのお店。わくわくしながら店内を見回すと、「大学定食」以外のメニューも豊富でどれも魅力的なのであった。

他のお客さんはお店に入るなり注文していたのだが、私はしばらくきょろきょろとしていて、注文をうけてくれるおねえさんと何度か気まずく視線が重なってしまった。

「早く選んで食べたいのはやまやまでメニューがとにかく私を惑わせるのだ、辛い。」

それでもわくわくしながら「大学定食」を一つ一つ吟味する。エビフライがおいしそう、上智大学。お箸で食べるハンバーグもおいしいんだよなあ、法政大学。しょうが焼きも捨てがたいよなあ、日本大学。ん?ヒレカツ、しぐれ煮、その他もろもろ、東京大学...東京大学!!!

「東京大学」を頼みたい。さくさくと揚げ物をほおばりたい。和食ならではのあまじょっぱいお肉をごはんと一緒に食べたい。「東京大学」を頼みたい。これでやっと、注文できる。あのおねえさんに満を持して注文ができる。

しかし、ふと思った。私のような何者でもない人間が、「東京大学」を頼んでいいのだろうか。頼むとして「東京大学お願いします!」なのか「東大お願いします!」なのか。前者もおのぼりさんみたいだし、はじめてきたのに「東大」と略すのもそこはかとなく失礼な気がする。

「すみません、とんかつ定食おねがいします」

頼めなかった。頼むには自己肯定と自尊心が足りなかった。私は逡巡の果てにとんかつ定食を注文したのだった。名物を食べに来たのに。

ほんとうにこれでよかったのだろうか。同僚になんと報告すればいいのか。そうこう考えているうちに、デミグラスソースがかかった大きなとんかつが運ばれてくる。

とんかつ定食(しょうが亭)

最高だあ。

大盛りのごはん、具沢山の豚汁、シーザードレッシングのかかったキャベツ(シーザードレッシング、ポイント高い)、カレー風味のショートパスタのサラダ。どれもこれもおいしい。

デミグラスソースがかかっているとんかつは初めて食べた。ざくざく、最高においしい。ころもと肉をほどよくたのしめるバランス最高のとんかつ。とんかつは端っこが一番おいしいと思う。端っこの脂身をたべるためにとんかつを頼むといっても過言ではない。多すぎず、少なすぎない端っこの脂身。最高のとんかつ。

うまい、うまい、という顔で厨房に視線を送ると、料理を作ってくれたお兄さんと目が合う。最高に、うまいです、という顔でほおばり続け目をつむる。どう思われたかはわからないが、すぐに目をそらされたことはわかった。

食べながら気づいたが、みんな普通に大学名を唱え、普通に大学定食を頼んでいた。

昼休みの時間を気にしつつ、店をあとにする。今度こそ「東京大学」を頼みたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?