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鼻唄に手を引かれて

数日前、姉と母と会話をしていたときのこと。
姉が不意に「↑ふっ↓ふー」と、高低差のある相槌を打った。
ある音楽の頭の2音に聞こえた私はその続きのメロディを歌ったのだが、「?」と頭にクエスチョンマークを浮かべるふたり。

私はてっきり姉がその音楽をなぞったのだと思ったが、そうじゃなかったらしい。
もう一度歌ってみるも相変わらず見えるクエスチョンマーク。あれ?

「この曲、姉弾いてたやん!」
「たったーーーたららったららーーーやん!」

曲名も思い出せないバッハのその曲をひたすら頭から歌う。覚えているところまで何度も繰り返す。
ようやく「あぁ!!」とその曲の存在を思い出してくれたふたり…だが、誰一人としてタイトルを思い出せない。
私の歌った心許ないメロディを頼りに曲名探しの旅が始まった。

とにかくApple Musicをうろうろしてみる。
「バッハ」
と検索すると

ヨハン・セバスティアン・バッハ
アーティスト

と表示された。
バッハ……おまえアーティストやったんか……

いや、全くもって間違っていないのだけれど、肖像画がまるでアーティスト写真だというように丸く形どられ、現代のアーティストと同じようなスタイルで″ヨハン・セバスティアン・バッハ″と表示されると些か違和感がある。
(伝わるだろうかこの感覚…!)

話を元に戻そう。

たしかマイナーのメロディだったな、と
″なんちゃらなんちゃら minor″
など、minorの文字を頼りに手当たり次第に再生してみる。
とにかく何でもかんでもかけてみる。

バッハということ以外に何のヒントもないから、ひたすら手探りの曲探し。
うっかりトッカータとフーガまでかけてしまう始末。

余談だが、このトッカータとフーガ、目ではトッカータとフーガで読めるのに、何故か口に出すとトッターカとフーガと読んでしまった。
「トッカータや」
と双方から飛んでくるツッコミ。
あれ?何かおかしいな?とは思ってたよ。「トッター…」くらいで。私の脳の方は思ってたよ。口の方がトッターカと思い込んでいただけで。

…話を元に戻そう。

ふたりも巻き込んでひたすらバッハを聴きまくる夜。
あるとき″フランス組曲″という文字が目に入って、なんとなくの懐かしさを感じた私はアルバムを開いてみた。収録されている曲を再生してみたけれど、どれも違って。
あの懐かしさはまやかしだったか…とまた次のアルバムへ……

を繰り返しているうちにだんだんと疲れてきた。

この方法の限界を感じた私、「クラシック 曲名 調べ方」と調べ始める。音階を入れたら検索しますよ〜というサイトに姉が口ずさんでいた階名を入力。も、シャープやフラットをすっかり失念していた私。黒鍵を考慮せず打ち込んだまま検索していた。いや、どんな曲やねん。と検索エンジンも思ったことだろう。

ふたたび検索画面に戻り、やり直しを試みる。が、どこがフラットなのか分からないので聴いた音階をそのまま入力……なんてので答えが出てくるわけもなく。
私には無理だ…とこの方法を断念することに。

何をやっても辿りつけないくらい、もしかしたらマイナーな曲なのかもしれないな…
勝手にそう結論づけて一旦スマホを閉じて歯を磨く。夜も更けてきた。バッハとの追いかけっこはそろそろ終わりにしてもう寝なければ。

やっぱりないわ〜とぼやきながら姉の部屋に降参を伝えにいくと、姉はまだめげずに探していて。しばらく隣に座っていると、
「あっ…これ……」
と呟く。
目ぼしいものがあったのかもしれない。
心の中で″フランス組曲は違うかったで″とつぶやいて、姉がひとつずつ再生していくのを見守る。

そうしてスマホが歌った。

「たったーーーたららったららーーー」

!!!!!

これ!!!!!

わー!!見つかった!これや!!!
ひとしきり喜んで、スマホの画面を見せてもらう。そこには「フランス組曲」の文字。

!?!?!?

えっ………

「私フランス組曲見たのに!!」

と思わず叫ぶ私。夜中だぞ気をつけろ。
よくよく見てみると、フランス組曲の3番の5曲目「Gigue」という曲だった。

えっ、だってフランス組曲って5曲しかなかった……アレ??
自分のスマホでも「バッハ フランス組曲」と検索し、アルバムを表示する。そのまま下にスクロールすると……6番まであるやないかーい!

私が短気に閉じたページに答えがあったなんて…
たしか序盤にフランス組曲には出会ってたはず……

彷徨った時間、およそ1時間半。
近くまで行っていたのにタイムアップで辿り着けなかった迷路の中で項垂れるみたいな、そんな気分。
それでも再会できたことの方が嬉しく、リビングにいる母の元へ走り、母にも聴かせる。一同、拍手。

そしてそのピアノの音色の綺麗なこと…!
マレイ・ペライアさんという方。
調べてみたらかなり有名なピアニストの方らしく、さまざまなアルバムがApple Musicで聴けそうだった。
いろいろ聴いてみよう…!!

1時間半の道のりはまあまあ長く感じたけれど、ゴールでこんなに素敵なピアノと出会えたなら参加した意義はあったな、と思えたバッハの迷路。

「たったーーーたららったららーーー」

の正体が気になる方はぜひ、Apple MusicやYouTubeでバッハのフランス組曲「French Suite No.3 in B Minor, BWV 814:VI. Gigue」を聴いてみてほしい。
もちろん私のおすすめはマレイ・ペライアさんのピアノ。

えりぴ
(やっぱりminorで合ってた!)

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