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誰かのために元気でいたい

義母が好きだ。夫と結婚する前から、その穏やかな立ち振る舞いと細やかな気遣いと、決して人を悪く言わない決意みたいなものが好きだった。華奢な体に不似合いな、やたら腹から出る大きな声は、昔小学校教諭だったと知り納得がいった。その職業を体現する、誠実さと実直さと朗らかさを絵に描いたような人だと思った。

夫と結婚して8年が経つが、変わらず私は義母が好きだ。夫は時々真面目すぎて不器用ですごく頑固なところがあるが、あのお母さんに真面目で誠実であれと育てられたのだろうと思うと愛しくなる。自分でもなぜだかよく分からないが、それほど義母が好きなのだ。なんかもう大ファンである。推しである。(義父も飄々とした素敵な人だし、義妹も明るくしなやかな美人で大好きなのだが、やはり推しは義母である。箱寄りの義母推し、といったところか。)

義母は人を褒めるのが上手い。自分の親も子供も夫も臆面なく褒めまくる。当然私もべた褒めなのだが、そこに嘘も嫌味もない。本当に心からすごいと思っているんだろうと感じる。褒めなくちゃとか褒めておこうとか、彼女にはそういった遠慮や打算が微塵もない。家族や周りの人は皆きっと、本当にすごいのは彼女だと思っていると思う。

夫の両親とは多くて月に2回程度会う。食事をしたり、時々泊まったりする。義母と二人になると私はよく自分の話をする。私は自分の個人的な話には誰も興味がないだろうと思っているし、アドバイスして欲しいという訳でもないので誰かに悩み相談をするのが苦手なのだが、彼女と話しているといつの間にか相談窓口に来た人みたいになっていることがある。

彼女は私が自覚するともなく抱えているモヤモヤしたものを感じ取っていたわってくれる。私は覚束ない言葉でそれを説明しようとする。心の中でぐちゃぐちゃになっていたものを彼女は優しく広げて丁寧に畳んで差し出してくれる。そして「なぎさちゃんはすごいね」と言うのだ。

高齢になりつつある両親たちの感染リスクを高めてはいけないと、もうずいぶん長らく会っていない。ご無沙汰しているお詫びと、足りないものがあれば送る旨メールしたら、すぐに電話がかかって来た。

電話口の声は溌剌とした、やたら腹から出る大きな声だった。でも私は知っている。人一倍繊細で環境の変化にも敏感なこと。愛犬の死が近づいていること。高齢の父親が心配だけど会いに行くのを我慢していること。大好きな温泉も外食もずっと我慢していること。

会えばそれなりに気も遣うし、いつまでも敬語で話してしまうし、遠慮もたくさんするけど、やっぱり私は義母が好きだ。ずっとずっと元気でいて欲しいし、彼女とその周りの人たちの幸せを願っている。私が在宅勤務だと聞いてとても安心してくれたその声に、私も元気でいなきゃとまた励まされた。

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