ラブレター・フロム・実家
母の日をすっかり忘れたまま当日の朝になってしまった。
しらみつぶしに当たった大手のお花宅配サービスはどこも売り切れか数日経ってからのお届けで、もしかしたらあそこなら何とかしてくれるかも…と縋るような気持ちで義実家のそばにある花屋に注文したところ、程なくして電話があり、「今から行きますわ!うち、すぐ近くですねん!」と大変頼もしい。さすが。うん。すぐ近くなの知ってる。それから1時間もしないうちに義母からお礼のLINEが写真とともに送られ、私の母の日はなんとか事なきを得た。
同じ店に注文したうちの母へのお花はまだ届かないが、そっちはまあ、そのうち届くでしょう。なんて悠長にしていたら今日母から荷物が届いた。
届いたのはキンキンに冷えた段ボールで、中はあらゆる冷凍食品でいっぱいだった。私の外出回数を減らそうと送ってくれたのだろう。冷凍コロッケや干物、豚バラ、それに大量の冷凍ピラフ。そういえば学生の頃生協のエビピラフが好きだった。自分でも忘れてたわ。母は私の好物を私より把握している。
手紙でも入っているかと思ったが、手紙の代わりにキンキンに冷えた手作りマスクが二枚入っていた。夫と私に1枚ずつ、家にあるもので作ってくれたようだが、耳のゴムは紛うかたなきパンツのゴムだった。私のは白地に白のリボン柄で、えげつないランジェリー感を醸し出していた。
母は昨今の感染拡大で職場から暇を出され、退屈を持て余している。私が在宅勤務なのを良いことに(よくないけど)たびたび電話をかけて来ていたが、最近は鬼滅の刃にハマっているらしい。
ここ数年で、母親とのちょうど良い距離がようやくわかるようになってきた気がする。母の性格がどうだとか言う以前に、母の一言は私にはいつも重い。気にしないつもりが気付けばいつまでも付きまとって来る。決して嫌いなわけではない。子ども思いで情に厚い、どこにでもいる関西のおばちゃんだ。なのに近くにいすぎると私の感情の振れ幅はどんどん大きくなっていって、克服したはずの自分の嫌な部分が露わになるような気がしてしまう。
「凪のお暇」の凪ちゃんを応援している。シンジでもゴンさんでも良い(どっちも格好いい)。ドラマみたいにどっちとも結ばれなくても良い。ただ、凪ちゃんとお母さんの関係に私の情緒は爆発しそうになる。私の母が凪ちゃんのお母さんに重なる訳では決してないことは、母の名誉のために申し添えておく。だけどそれでも、母親とその言葉の存在感が呪いのように付きまとうことが確かに私にもあった。私が一人娘で、長子だということも関係があるだろうか。竈門炭治郎の言葉を借りれば、「長女だから我慢できた、次女だったら我慢できなかった」のか。何にせよ、近すぎると冷静でいられなくなるのは家族あるあるなのかも知れない。
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