ボストン大学が致死率の高いオミクロン株を作り出したという噂

今週、タブロイド紙のDaily Mailがボストン大学のとある研究を取り上げたことで、世界中の一部SNS界隈で「ボストン大学が新しい致死率の高い新型コロナウイルス株を開発した」という噂が話題になりましたが、ボストン大学はセンセーショナルに扱うために研究内容の一部を切り取った誤解を招く不正確な報道であると反論声明を出しています。

Daily Mailの記事
Boston University CREATES new Covid strain that has an 80% kill rate


ホストン大学の声明
NEIDL Researchers Refute UK Article about COVID Strain

Daily Mailの記事は、ボストン大学がオミクロン株のスパイクタンパク質と武漢株を組み合わせてマウスの致死率が80%のウイルスを作製した(オミクロン株の致死率は0%)。新型コロナウイルスは武漢の研究所でコウモリのコロナウイルスを意図的に操作して感染力や致死率を高めた機能獲得研究が起源だと考えられている。このような危険なウイルス操作研究がアメリカでも続けられていることが明らかとなり非難されている、的な内容だが、

元のボストン大学の研究論文は査読前で、
Role of spike in the pathogenic and antigenic behavior of SARS-CoV-2 BA.1 Omicron
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.13.512134v1
端折って説明すると、
研究の目的は、オミクロン株の病原性は他の変異株と比べて低下しているが、どこの変異がこれに貢献しているか、を調べる研究。
マウスに武漢株を感染させると致死率100%。オミクロン株を感染させると致死率0%。オミクロン株のスパイクタンパク質を武漢株に組み込んで作製した株を感染させると致死率80%。
オミクロン株のスパイクタンパク質を武漢株に組み込んでも致死率は0%にならなかったので、オミクロン株の病原性が低下した原因はスパイクタンパク質以外のウイルス部位の変異による影響が大きいと考えられる。

というわけで、Daily Mailの記事は武漢株に感染したマウスの致死率が100%となる実験系だということを隠し、オミクロン株と武漢株を組み合わせた株の致死率80%という数字を際立たせ、ヒトでも致死率が高い猛毒のウイルスを新たに生み出したように受け取られる文面で書いてあり、
ウイルスの機能獲得を目的とする実験であるような印象を与える文面と武漢のコウモリコロナウイルス研究とを組み合わせて一部界隈の人にウケルように書いてある、という点ではボストン大学の不正確だと反論したい気持ちはわかる。

ただ、オミクロン株のスパイクタンパク質と武漢株を組み合わせた株は、武漢株並みの病原性でワクチン免疫を回避する能力や複製する能力はオミクロン株と同様に向上しているので、この株が研究室から漏れ出るような事態になるとオミクロン株より厄介なことにはなるかもしれない。

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