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ボサノヴァが溶けたバターになってしまうまで

ジョアン・ジルベルトのライブ盤『João Gilberto / Live At The 19th Montreux Jazz Festival』を追悼記念に購入し、なんとなく流し聴きをしていたのだが、その中の「A Felicidade」が素晴らしい。

細馬宏通氏は著書「うたのしくみ」の中でジョアンとボサノヴァについて触れており、その中でボサノヴァは同じ歌詞を何周も何周も歌い続けることで高揚感を生み出すという解説をしていが、まさにそのボサノヴァのリピートによって聴衆が徐々にたかぶった果て、全員でA Felicidadeの冒頭一行の合唱を始める。そしてその詩はこのようなものだ。

Tristeza nao tem fim, felicidade sim.
悲しみには終わりがない、幸せには終わりがある。

会場が感極まって終わりがなくなる瞬間。その声は終わりがない悲しみに対するやりきれなさ。悲しみを一瞬忘れ去ることができる喜び。幸せが演奏とともに数分後に終わってしまうことへの寂しさ。まるでこの一行の歌詞のリピートそのものがボサノヴァのリピート構造の縮図のようになっている。ジョアン・ジルベルトの人生には終わりが来てしまったが、この録音の伝承に終わりはない。


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