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【詩と心と声】シリーズ集

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女優・望木心の心の中を現代詩で綴っております。Twitter、Instagramで公開した内容をアップしてゆきます。新しい詩も掲載予定。心が寄り掛かりたい時、癒されたい時、優しく…
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白昼の月と太陽

頬に差さる 白昼の陽に焼かれて 負けてしまいそうな午後3時 誰もいない森へ 静かな場所へ 小さな緑の手のひらが無数に広がり 遠いまぶしい青空を隠す さっきまで光に憎さを感じていたのに 私は途端に寂しくなって そこに美しさを見つけた 昨日 散ってゆく葉桜の枝の隙間から 月が見えていたのを思い出す 白昼の月は 姿を変えて 私に語りかける 「そばにいるよ」

アスファルト

昨晩 雨が降った 何かの懺悔のような雨音は 頭上の屋根に打ち付けられている 深夜 突然目が覚めた 飛び起きた途端に 忘れていた人の顔を思い出す 夢は何を見たのかは分からない 私は仄暗い水の中を泳いでるような気分のまま 朝日に射された 眩しさに辟易した 理由もわからず 答えを探しに外へ出る 昨晩の雨が蒸発している匂いがする 照り返す濡れたアスファルトの傲慢な光が 足元で道を作っていてくれた あの人も きっと どこかで今日 歩いているに違いない

人生

サクラの花が ポロリと 潔く落ちた 幾重にもヒラヒラとした花びらは ひとつひとつがイビツな形で 透き通っていて  繊細な血管を巡らせている 花は美しかった それぞれの自分を集めて 花は美しい人生だった イビツな集まりの花達は イビツなままで 同じ場所で 咲き 同じ土の上に 辿りついた イビツなまま ただ そこに居た 私もただ そこに眠った

つめあと

手を繋いだ あたたかくて 柔らかくて 守られているような 強くなったような そんな気がした 私の長くて赤い爪が 彼の手を引っ掻いた 彼の手にキズがついた 紅い線が伸びている 「痛い方が忘れないから 大丈夫」 そう言われてから 私たちは分かれた 赤い爪をシンナーの香りの中で 肌色に戻した コーティングを剥がしたつめは 柔らかくて弱々しい 爪切りでつめをパチパチと切る まるで拍手のように聴こえる

別離

ぬけがらが積み重なっている 何度も一体になった後はいつもクシャクシャにされ 乱雑に放り込まれた ぬけがらになってから待ち遠しいのは 偽物の花の香りに包まれ 頭を冷やす事だった いいえ 私は嘘をついていた 偽の花の香りも冷たく痛い水も一体になることも 全部キライだった ただ、ただ、自分を愛したかった 唯一、真実なのは 自分がどこにも逃げないこと 裏切らないことだった 裏切る時が来るのはそれはロマンチックな心中 ぬけがらではない自分なら愛せると思った やり直しはいつで

飛翔

想像した 隣の席にいることを 想像した 夏の夕日に感動していることを 想像した 機嫌がこの上なく悪い様子を 想像した 何年か 何ヶ月か 何日か経って 想像するのをやめた こんなにも 二月の冬の夕日が溶け込む美しさを 私は知らなかった 影が大きく伸び 微かにジャンプした どこまでも飛べそうだ

忘れない

台風が近づいている 最後の晴れた日 身体が浮かんでいるような感覚で もう二度と行くことはないだろうと そう思っていた場所へ向かう 河を渡る橋の上から いくつもの時がリズムのように やって来ては消える 掴めない記憶が 伸ばそうとする手のやり場を無くす 積乱雲が昔見た夢の世界へと誘う 浮かび上がる体 雲の方角へ跳ぶ 家路へ かつて家とした所とは 真反対の方向へ かつてそこにいた 存在と 想いと 幸せであった私とあなた あの時 私は幸せでした 只、ただ、あの日の今日

明日と10年

10年前 ここを通りすぎて 掴めそうな夢を 追っていた 5年前 ここに立って 会うべき人に 会いに行っていた 1年前 何も無くなった後の 自由を持て余し 路地裏に踏み込んだ 今日 同じ自分が何人もいるけれど 誰一人としてお互いを知らない 明日 ここじゃないどこかで 「死んでいる場合じゃない」 そう思っている

望み

瞳が物語る いつも うったえている でも なぜ 体は木のように 動かないのか 心臓に花を咲かせ 冷たい青空の下 あなたの瞳の中に 入ろうとしている 輝く世界に 根を下ろせたら 何年も何年も 生きてゆけるでしょう

かりそめ

自分への手紙 あなたが居るから 私が存在している 私が居るから あなたがそこに居る あなたを 信じ愛するように 自分自身も できたら 信じきって 信じきって 信じつづけたまま あなたと生きたい たとえ かりそめだとしても あなたと

踊りつづけて

アドレナリンに ふりまわされ 朝がきて 足の皮が剥がれて 血が流れでて 叫び続けながら踊ったよ こんなに気分の良いいことは ない なにせ アドレナリンの燃料が 蝶にも 鳥にも 風にも 誰にも言えないことだから とりあえず 君には 死んでも言わない なんでって 自分にさえ 隠し通していたいんだって 分かってよ

小さな子供

子供の頃 夕闇が嫌いだった 孤独で 疲れていて 何のために 毎日この時間を過ごすのか 分からなかった 時が経ち 私は夕闇の中で 炎を見つけた 火の粉が夜空へ跳ねる 静かにそれを見つめていた 無意識の内に 小さな子供がやってきた そっと胸に抱き寄せ 二人きりで炎を見つめる この子も知っている あの頃の物語を もう一度だけ語ろう

おなおし

穴のあいた洋服 サイズの合わなくなったパンツ お直しが必要だと分かっていて 目の前のラックに掛けてあるのに 気にしながら 手をつけず 夏 秋 冬  そして年が明けた 夏の初めに友達と疎遠になった 原因は分からない 気にしながら 見て見ぬ振りを続け ぽっかりとあいた 雲の隙間の青空に その人のことを思った 自分の愚かさと その人の哀しさに後悔する 穴を縫いつけた 再生させるために 私の体をあたため楽しませてくれた その洋服に丁寧に針を通す そしてクローゼットへ戻した

永久

わたしの中に 私じゃない わたしを見つけ出して オパール色をした 滑らかな感触の空みたいな 世界の心を 腕に包み込んで 夜明けを見つめよう いつしか 懐かしい匂いが わたしを満たして 私じゃない わたしを はっきりと感じられるだろう その時 初めて降り注ぐ やさしさが 喉の奥を通って 心臓に永久に広がるでしょう