PS5が早くも日本では軽くオワコンの件
こんにちは。ふくもちです。
こんな記事を見つけました。
【経済インサイド】PS5、ソフトが売れず転売の影響浮き彫り 日本市場軽視で消費者離れも
https://www.sankei.com/premium/news/210123/prm2101230008-n1.html
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)から発売された新型家庭用ゲーム機【PlayStation®5(PS5)】の販売数が伸び悩んでいる、という内容です。
PS5は2020年11月12日に発売し、2020年12月末時点での日本国内における累計販売台数はたったの25万台。
2014年2月に発売されたPS4は、発売日から2日間で32万台。(ソース:https://www.famitsu.com/news/201402/25048815.html)
任天堂から発売している【Nintendo Switch(Switch)】の2020年12月販売台数が約100万台ということを考えると、いかにPS5が売れていないかがよくわかります。
大手ゲーム媒体「ファミ通」によるハード売上集計
集計期間:2020年11月30日~2020年12月27日の4週分
1位 Nintendo Switch
合計:975,797台
2位 プレイステーション5
合計:53,715台(11月販売数:201,435台)
※Nintendo Switchは、Nintendo Switch Liteとの合計値、プレイステーション5は、プレイステーション5デジタル・エディションとの合計値になります
https://www.famitsu.com/news/202101/07212518.html
私はゲーム業界に身を置く人間ですが、PS5の売れ行きの厳しさは業界内でも不安視の声が大きく、新作ソフトをどのハードで発売するかを慎重に検討しているメーカーも多いです。
なぜPS5はここまで売れていないのか。この先どうなると思われるか。
ハードの特性やローンチソフト、日本と海外の違いなどを踏まえて書きたいと思います。
ゲーム好きでPS5の抽選販売に飽き飽きしている方は勿論、「PS5がなんか大変らしいけどよくわからない」という方にもご覧いただけたら幸いです。
そもそもPS5ってPS4と何が違うの?
PS4は、日本国内では2014年2月に発売されたハードです。
簡単に変更ポイントをまとめます。
・ソフトの読み込み時間が短くなった
・8K画質にも対応
・従来のハードにはなかった、PS4ソフトが遊べる【後方互換機能】を持っている
・ダウンロード(DL)版のみ遊べるDigital Editionと、パッケージ版とDL版どちらも遊べる通常仕様の2種類で発売
※PS4は、通常仕様と4K対応のProモデルの2種。DLのみモデルは存在しません
・デフォルトでのボタン操作を、決定が【×ボタン】、キャンセルが【○ボタン】に統一
※PS4までは日本のみ決定が○、キャンセルが×
PS5ソフトで遊ぶ場合のみ適用されるため、PS4ソフトをPS5で遊ぶ場合は従来の【決定が○、キャンセルが×】という操作のままです。
なぜ日本でPS5が品薄なの?
SIEは2021年3月までに、全世界で760万台以上の販売を目指すと話しています。(ソース:https://news.yahoo.co.jp/articles/9c6e10297bbde2b656e3bd448f262a12bdab5aa7)
しかしこれはあくまで全世界での数字のため、そのうち日本に割り当てられる台数は絞られてきます。
2019年のPS4販売台数では、日本は全世界のうち10%ほどの売上でしたので、同じくらいのシェア率だとすると、2021年3月までの国内流通は76万台程度と予想されます。
この76万台を、11月~3月の5か月間に分けて出荷・販売すると考えたら、ひと月あたりの販売数予測は15万台。11月中旬発売だったことを加味すると、12月末時点での販売数25万台ってまあ順当な数字なのでは……?
しかし、新商品への興味や期待は
①情報解禁
②予約開始時
③発売直後
の主に3ポイントで高まることがほとんどで、口コミ等で発売後に伸びるのは珍しい例です。その大事な発売直後のタイミングで「欲しいのに手に入らない」というフラストレーションが溜まってしまうと「もう必死になって買う気もおきない」という思考へシフトしていきます。
発売時に潤沢な在庫を用意しなかったSIEの怠慢が、この品薄状態を招いたといっても過言ではないでしょう。
もちろん転売ヤーも悪いのですが、供給が整っていれば転売ヤーは損失を被るだけですので、供給がされていない事態が一番問題と考えます。
オワコン感の理由①
ローンチソフトのラインナップがしょぼい!
※ローンチソフト=新ハードの発売とほぼ同時に発売するソフト
一応、スパイダーマン、アサシンクリード、FIFA21といったビッグタイトルはもちろん、日本向けではぷよぷよテトリス、仁王2、バイオハザードなどの発売も予定されているのですが、大半のソフトがPS4版も同時に発売されます。
PS4を持っている人からしたら「え、じゃあわざわざ今がんばってPS5買わなくてもよくない?」と思いますよね。その通りです。
なぜPS4とのマルチプラットフォームで発売するかというと、PS5本体が普及していないのに、PS5のみ対応で出しても売れないからです。
しかもPS5にはPS4ソフトとの後方互換があります。メーカーの立場からしたら、既に国内で1000万台近く販売したPS4向けで出したほうが、手に取ってもらえる確率は高いし、PS4本体のサポートが終了してもPS5で遊んでもらえると踏みますよね。
切実な話ですが、ゲームの開発費ってお高いんですよ……。
ノベルアドベンチャーですら6,000万近くかかり、損益分岐点は15,000本前後。
アクションやRPGは、3Dモデリングなどどの程度こだわるかにもよりますが、3億~何十億の世界。損益分岐は10万本とかザラです。
10万本売れないと黒字にならないのに、25万台しか売れていないハードに賭けるのは博打すぎますよね。
ちなみに任天堂はこの点非常に上手く戦略をとっていまして、ローンチソフトは基本的にマリオとポケモン(プラス、年齢問わないミニゲーム系)で固めてきますし、マルチプラットフォーム販売は絶対にしません。
既に有名なコンテンツを使った新作という吸引力は勿論、対応プラットフォームを絞ることで確実にハードを買わせに来るのです。
SIEは自社で有名なコンテンツを持っておらず、PS5のローンチソフトもほとんどがSIE以外のメーカーから発売のタイトルのため、PS4とのマルチだけでなく、Switchとのマルチ販売も認められているのです。
SIEが開発費を補填して「PS5だけで出してください!」と各メーカーにお願いをしつつ、ハードの供給も十分にできれば、今よりはマシな状況になったのではないかと思います。そんなメーカーにとって虫の良すぎる話、実際無いですけどね(笑)
オワコン感の理由②
高画質への対応が難しい! 性的表現の制約が厳しい!
これは完全にメーカー側の意見です。
PS5の売りの一つである8K対応の高画質と、表現に関する制約によって、メーカー側がそもそもPS機でソフトを出そうという気になれないのです。
ひとつずつ解説しますね。
①高画質対応
これは、主に2D表現がメインのゲームで立たされている苦境です。
今のテレビやPC画面は【フルハイビジョン(フルHD)】という、1920px × 1080pxの画面サイズです。
4Kは、フルHDの画面を縦に2つ、横に2つ並べた、フルHDの4倍の画面サイズです。映す先の画面の大きさは変わらないため、大きいサイズで作った分、画質が綺麗に見えます。
何が問題かと言いますと、単純に4倍の作画コストがかかってしまい、費用がこれまでの比にならないのです。
しかも厄介なのが、2D作画の場合、ドットイラストくらいの単純なグラフィックでない限り、フルHDと4Kの違いが分かりにくいということ。
これなら、コストをかけて4Kで出す必要はないかなと思ってしまうのです。
②性的表現の制約が厳しい
SIEはもともと日本企業ですが、北米欧州への進出と組織再編に伴い、現在はグローバル基準での契約・製品開発・販売戦略をとっています。
以前、「SIEが性表現規制のルールを導入しようとしている」と話題になり、それをSIE広報が否定する、という一幕がありましたが、
性表現に対するSIEの方向性が"CEROやESRBなどのレーティング基準に関係のない独自のものか"については、「日本においては、CEROの基準で統一していましたが、タイトルの性的表現等については、より、グローバル基準を参考にし改めて取り組むようにしております。」と回答しています。
(中略)
日本においては従来のCERO基準ではなく、一般に性的コンテンツに厳しいとされるグローバル基準に沿うよう取り組むようになったということです。
https://www.inside-games.jp/article/2019/04/25/121978.html
日本に限定すれば、従来は日本のレーティング機構であるCEROの審査結果をそのまま受理し、発売を許諾していたのが、SIEが個別で表現内容を確認するということになります。
実際、私が開発に関わったタイトルでは、CERO審査に出す前に、SIEへ性的表現に関わる部分のシナリオやグラフィックを提供しました。
さらにそのタイトルを海外移植する際は、【中学生が海で遊んでいるときの水着姿】【触手モンスターに捕まる】という部分で、若干の難色を示されております。
覗きなどの性犯罪に抵触する内容ならまだしも、「え? このレベルで?」と思われるかもしれません。
海外では、子供に対する虐待や性犯罪に対して非常に厳しい姿勢をとっています。そのため、そうした行為ととられかねない表現も厳しく規制しているのです。
対して任天堂は、各レーティング機構の審査結果を重視するという姿勢を変えておらず、内容に関する指摘や相談は入りません。
ちなみに、前述の私が携わったタイトルは、どうにかそのままの内容で移植発売できましたが、中学生の水着姿については「けしからん」という声を多くいただきました。そういう価値観の違いを予め埋めておくために、日本でもグローバル基準で内容を検討するのは今後必須になってきそうですね。
また、念のため記述しますが、犯罪や差別を肯定、または冗長させるような表現は絶対にあってはなりません。
余談ですが、携帯型ゲーム機のPS Vita販売終了に伴い、SIEから携帯型機が消えたのも、メーカーがPS機から離れた理由として大きいです。
一番有名な話ですと、女性向け恋愛ゲーム、いわゆる【乙女ゲーム】業界は、最大手のオトメイト(アイディアファクトリー株式会社)を筆頭に、ほぼほぼSwitchに鞍替えしました。
これまでPS4とPS Vitaのマルチで展開していたタイトルも、PS4とSwitchのマルチがメインとなり、今後のPS5の普及次第では、ますますSwitchでのリリースに拍車がかかると思われます。
オワコン感の理由③
ソフトがますます売れなくなるDigital Editionの存在
これは、ソフトを販売するゲオやソフマップ、家電量販店さんなどの流通と、メーカーが盛り上がれなくなる側面をはらんでいる、という内容です。
いつかは店舗での特設コーナーやPOPも少なくなり、オワコン感がさらに漂ってくるのではないかと予想しています。
まず、パッケージ版とDL版の利益構造を説明します。
パッケージ版の場合、流通業者への卸価格から製造費を引いた額が利益に。
DL版の場合、プラットフォーム手数料を引いた残額がメーカーの利益になります。
単純な利益額だけでいえばDL版のほうが大きいです。
しかし、ゲームが売れているという指標は、ゲーム媒体などの第三者が公平に調査できるパッケージ版を基準としており、この点で優位性があります。
また、パッケージ版は特典や限定版商法ができるため、販売本数を伸ばせる可能性が非常に高く、魅力があるのも事実です。
仮にDigital Editionが普及したら、このようなビジネスモデルを見直す必要がでてきます。
小売店や流通業者からしたら、Digital Editionは脅威とも呼べる存在でしょう。DL版のみでリリースするタイトルが増え、パッケージ版も売れず、扱う商品が少なくなるのが目に見えるからです。
ハードも一定期間を経ると伸びが落ち着くでしょうから、ゲーム売り場の面積を減らし、PS5関連商品がほぼ店頭に並ばないという可能性は十分にありますね。
これは近々の問題ではありませんが、DL版が及ぼす影響は少なからずあると見込んでいます。
最後に
PS5を巡る市場が盛り上がるかどうかは、今後のSIEにかかってくると思います。
ハードの供給については、PS4の製造ラインを減らしてPS5に注力するようですので、後々増えてくるのではないかと推測されます。(ソース:https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1298409.html)
ただ、PS4のラインを絞ることで、PS4の購入を考えていた層が新しく需要に含まれますので、ひっくるめて十分な供給量を確保できるかがカギになります。
ソフトについては、まずPS4とのマルチを極力無くし、PS5でしか遊べない魅力的なタイトルが出てくることが先決ですね。
どの程度のメーカーがPS5向けの新作を仕込んでいるかまではわかりませんが、ここから1年間の動向を見て、開発中のタイトルをどのプラットフォームでリリースするかを決めていくと思います。
ただ、今のSwitchの勢いと、取り扱うソフトの内容を見るに、PS機はXboxと同じ路線を辿っていくような気がしますね。
ある意味、ユーザーの棲み分けができていいのかもしれませんが、メーカーからすると「なら広く手に取ってもらえそうなSwitch向けで新作を作ろう」という考えにシフトしていきますので、ますますオワコン感が……。
個人的には、PS機に限らず、SwitchやSteam、PC-ROMまで、ゲーム業界全体がさらに盛り上がってほしいものです。
※本記事で引用したすべての内容は、2021年1月24日18時閲覧時点での情報です。
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