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お父さんにおっぱいがあった

夜中の2時頃、来たるライブのためにミシンと対峙していると、コンコン、と部屋のドアを父が叩いた。はい、返事をすると、年がら年中パジャマが半袖トランクスの坊主おじさんメガネがひょこ、と申し訳無さそうに半身乗りだし、「あったかくしてるか。」部屋は、母から送られてきた暖炉を模した電気ストーブ(これがまた可愛い。説明しづらいが、偽物の薪が本当に燃えているみたくなっている。)のおかげで、寸法の確認のための金色のタンクトップと、カーディガン1枚羽織った私に差し支えが無いほどに暖かくなっていた。「これ、暖かくなるもんなんやなあ。」
ちょうど衣装の1つのジャケットが完成していたので、見るよう勧めると父はてちてちと部屋に入ってジャケットと、以前完成していたスカートを見て「どうなってるん?下」と言っていた。「いつ着るん?」「ライブで着るねん」「最後の?」「うん」他愛もない会話を終えて父が眠りに帰ろうとした時私は思わず父を呼び止めた。

「お父さんおっぱいあるやん」

父は昔から鳩胸で、太ると胸が際立つことは覚えていたが、糖尿病の薬のせいで以前にも増して太ってしまったためか完全におっぱいができていた。父がブラジャーを着けるはずも無く、無駄に形のいいピンと前を向いた元気なおっぱいは、その格好から寒いせいか、心もとないTシャツから乳首を露呈させていた。その姿はさしずめブラジャーを着ける前の発達のよい小学生と言ったところで、非常に生々しくて思わず引き止めてしまった。「お父さんおっぱいあるやん」これ以外に表現のしようがなかった。うちのお父さんにはおっぱいがあるのだ。少女は恥ずかしそうに、職場の人から太ったことよりもおっぱいについて指摘されることを吐露すると、その豊満な上半身とは打って変わってスッキリした足元をすりすりしながら巣へ帰って行った。大変なこと多いけど、美味しいものとか一緒に食べたいね。頑張って生きよう

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