アクシアさんの卒業から私たちが学べることは
こんにちは、VTuberプロデューサーの餅田めぐです。
気付けば前回の投稿から半年が経過してしまっておりましたが、先日少し気になるニュースが入ったため、久しぶりに筆を執りました。
大手VTuber事務所「にじさんじ」のアクシア・クローネさんの卒業発表です。
アクシアさんは今年の8月から活動休止をされていた中、復帰がないままの活動終了となりファンに衝撃を与えました。
卒業を発表した文章の中では、「自分のやりたいことと会社の方向性が合わず」と明言されています。
アクシアさん個人に関する具体的な推測・詮索は控えますので、ここから先はVTuberさん全般の話になります。
VTuberさんの事務所所属に関しては前々から思うところがあったため、この機会にまとめることにしました(事務所に所属することを否定する内容ではありません)。
今回はVTuberさん向けに、事務所所属のリスクについて解説した記事になります。
気になった方はご一読いただければと思います。
(※本稿では事務所=企業という前提で話しています。たまに「企業ではないものの事務所を名乗っている団体」もありますが、ここでは事務所としてカウントしません)
事務所所属のリスクは軽視されすぎている
突然「リスク」と言われて何のことかと思う人もいるかもしれませんが、事務所所属がメリットばかりではないということに気づいている人は少なくないでしょう。
それでも、事務所に所属し、いくらかの月日が経ってから脱退する人は後を絶ちません。
独立など円満な退社だといいのですが、VTuberさんや事務所の出す報告文章を読んでいると、トラブルなどでの脱退も多く見受けられます。
確かに、「事務所所属」という響きは魅力的に聞こえるかもしれません。
「稼げそう」「機材は全部無料貸与」「事務所所属というだけで箔が付く」「箱のファンがいるから視聴者が生まれやすい」など、事務所に所属したいと思える理由はたくさんあります。
しかし、一方で絶対に忘れてはならないこともあります。
それは、「企業は儲けることを目的として事業をやっている」ということです。
これを言うと「いやこの事務所は誠実だ」「儲けが目的ではなく、界隈の発展に寄与している」という意見も出てくるかもしれません。
もちろんVTuberシーンに貢献している事務所も、タレントを大切にして誠実な運営をしている事務所もたくさんあるでしょう。
しかしそういった事務所であっても、売り上げがなければ成り立たないのが現実です。
機材など投資費用の回収はもちろんのこと、極端な言い方をすると、例えば事務所で働いているスタッフはあなたが食べさせなければいけないのです。
有名な芸能人の方に専属マネージャーがついているのは、その人が(マネージャーの給料を出せるくらい)大きく稼いでいるからなんですよね。
その覚悟があるか?というと大げさに聞こえるかもしれませんが、「事務所所属なら機材も無料だし稼げるから入るしかない!」と思っている人は、もう少し慎重な判断が必要です。
「稼がなければいけない」ということから受ける制約は、想定できるだけでも以下のようなものがあります。
・やりたいことができない(好きなゲーム・企画ができない、コラボ相手も制限されるなど)
・やりたくない(が、ファンを集めやすい)コンテンツを売上のために強制される
・配信や動画投稿の頻度を自分で決められない、やっていないと催促される
VTuber事務所を脱退する原因は、いわゆるこの「方向性の違い」によるものが少なくないと見ています。
制約は活動者のキャリアにも影響する
ほとんどのケースで、事務所を脱退した瞬間にモデルの使用権・チャンネルの管理権限はVTuber本人の手から離れます。
そうでなくとも、会社がプロジェクトそのものを畳んだ瞬間に、否応なく今後の活動が絶たれることもあります。
そうしてチャンネルごと削除され、「なかったこと」にされてしまうと、次の名義での活動では一からまたリスナー・ファンを集めていかなければいけません。
顔出しで活動していて、たとえ別名義になったとしてもすぐわかる芸能人とは違い、自分の手には何も残らないのがVTuberの歯痒いところです。
また契約内容によっては、「契約中の別名義での活動禁止」などもあり、活動者としてのキャリア形成に大きく影響を与える内容もあります。
このように、事務所に所属するということで、大げさに言ってしまえば失うものも少なからずあるのです。
「やりたくないこと」の明確化
それでは「どんな事務所に所属するべきか」「そもそも事務所に所属するべきなのか」を判断する際には、何が重要になってくるのでしょうか?
それは、あらかじめ自分の「やりたくないこと」をハッキリさせておくことです。
具体的には、以下の2つのシンプルな問いに集約されます。
・自分の「やりたくないこと」は何か
・それを、(企業あるいは個人の)収益のために、どこまで妥協できるのか
例1)シチュエーションボイスはできればやりたくないが、収益のためにはできる。ガチ恋営業は収益のためだとしても絶対にやりたくない
例2)別名義での活動について契約で縛られたくない
こういったように自分の中で明確化しておけば、事務所に契約内容を提示された時に「それはできません」ときっぱり言うことができます。
また、懸念点を意識しておくことで「●●はやらなければいけませんか?」とあらかじめ問い合わせることもできます。
所属後のミスマッチを防ぐという点では、個人にとっても企業にとってもメリットです。
正直に伝えることでもちろん不合格となる可能性もありますが、嘘をついて合格した時の方が後々心身の負担となり、結果コストが高くつくことも。
また、やりたくないことがあまりにも多い場合、そもそも事務所に所属すること自体が自分に合わないという可能性が高いです。
個人でやっていく方向で検討するのがベターでしょう。
早ければ数分、長く考えても小一時間で終わる作業なので、事務所所属を検討しているVTuberさんは是非やってみてください。
覚悟をしていても、慎重に判断しても、「そういうこと」はある
円満でない退所をした人がみんな迂闊だったか、と言われると決してそんなことはありません。
どれだけリスクに敏感になっていたとしても、完全には避けられないからです。
それでは、実際に「現在すでに所属中で会社と方向性の違いを感じている」という人はどうすればいいのでしょうか。
まずは、「現在の事務所で得られているメリット/脱退することによるデメリット」と「退社することで得られるメリット/所属し続けることによるデメリット」をリストアップして、しっかり天秤にかけましょう。
天秤にかけて迷う場合は、自分が活動で何を第一優先にするか(心身の健康・目標の達成など)を踏まえると少し考えやすくなります。
不当な契約はそもそも契約として認められないことも
また、少し分けて考えなければならないことですが、やりたい・やりたくない以前に不当な契約を結ばされているというケースもあります。
「契約だから」「合意しているから」で事務所が逃げ切れないような契約内容が記載されているという話は、VTuberに限らず他の芸能関係でも度々目にします。
つい先日も、歌手の愛内里菜さんが、過去の所属事務所に芸名の使用を止めるよう訴えられたという裁判がありました。
判決は、契約条項のうち、契約終了後も無期限で(芸名使用について)会社側の承諾を必要とする部分について「公序良俗に反するもので無効」と指摘した。
東京地裁は、芸名に関する契約書の内容を「公序良俗に反する」ものとし、愛内さんの芸名使用が認められました(事務所側は控訴するそうです)。
このように、契約書の内容は「合意したから絶対」とも言えないのです。
少しでもおかしいと思ったもの・将来に大きく影響してくる可能性がありそうものに関しては、泣き寝入りせずしっかり弁護士に相談することをお勧めします。
事務所に所属すること自体は悪ではない
ここまで事務所所属に関するリスクや、トラブルを避けるための方法などを解説してきました。
序盤でも少し触れましたが、事務所=悪というわけではありません。
個人ではできなかったことを、事務所の規模感になって成し遂げられるということもあるでしょう。
大手事務所などでは、個人で活動するのと比べ物にならないくらいのスピードでファンがついていきます。
しかし、光の部分ばかりに憧れて、リスクについてよく理解せずに所属を決めてしまうと、思わぬ痛い目に遭うことも。
どんな事務所なら自分にフィットしそうか?
そもそも、自分は事務所に所属するべきなのか?
よく考えて、できるだけ後悔の少なくなる選択をしていきましょう。
皆さんの活動がより充実したものとなるよう、陰ながら応援しております。
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