「しわをのばしてから」と彼女は言った。

ある日の取材の帰り道、カメラマンの子との何気ない会話の中でのこと。

どういう経緯かは忘れたが、読書の話になり、私が今はまっている本を「貸そうか?」と言ったら、断られた。
その理由は、すでに私が結構前に貸した本もまだ読んでなくて返せないままだから。
どれほどの状態かは知らないけれど、最近部屋が片付いてなくて、私が貸している本もどこかに埋もれている(笑)らしいのだ。

そこで彼女が言った言葉が

「しわをのばしてから」。

「しわ寄せ」という表現から連想してのことらしいのだが、彼女の心境までを含めイメージが湧くとても面白い表現で、感動して、心に残った。


普段は整っているだろう部屋の状況が、もみくちゃになっちゃっているのかな、と想像できるし、
その状態で、彼女は自身に不利益が生じていると感じていることも伝わってくる。
そこまで深刻ではないけれど、少しの不愉快さが常に付きまとっている感じも。

そして、「しわをのばす」ことができたら、すごくスッキリしそうという希望を与えてくれる。
洗濯物を干す前にパンパンと叩いたり、シャツにアイロンをかけたりする時の、あの清々しい感じが頭の中に思い浮かんだ。

ひと言で、彼女の現状やその状況に対する心境、願望、それが叶った時の感覚など、イメージ的にとてつもなく広がりのある表現だと思う。

これぞ、言葉の豊かさ、面白さ。

既存の言葉を上手に使いこなすことで豊かに表現することはもちろん、そうやって積み重ねていった先に、独自のこういう表現ができることがまた言葉というものの可能性なんじゃないかな。


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