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余命3カ月~ドラマ『今朝の秋』をみて

私が子どもの頃、我が家はあまりテレビを見せてくれない家だった。中学生くらいまで、テレビは父親がチャンネル権を握っていて、基本的にチャンネルはNHK固定。NHKであれば、大体見せてはくれたが、無駄には見せてくれなくて、ニュース、NHK特集(ドキュメンタリー番組)、クイズ番組くらい。ただ、次第に緩くなって、小学生高学年の頃には朝ドラ、銀河テレビ小説くらいは見せてくれていた。ただ、大河ドラマは「史実ではない」という理由で、見せてくれなかった。それでいて、NHKの受信料は断固として払わない、という大いなる矛盾をはらんだ家庭だった。(たぶん、今は払っていると思います。念のため。)

そんな家庭に育ったので、自然とNHKを見るようになる。大河ドラマでなければ、NHKのドラマを見ていても特に文句は言われなかったので、それを見るように。NHKだけに、キャストや制作費には金が掛かっていて、それなりにいい作品もあったので、どんなタイトルかわからなくても、印象に残っている作品はあった。ただ、普通の小中学生は、NHKなんて見ないから、学校で話題にしても、誰も知らないというのはつらかった。

そんな中に、今回ご紹介する『今朝の秋』というドラマがあった。このドラマの主演である、笠智衆(りゅう・ちしゅう)という、おじいちゃん役者がいて、その人の演技が、子どもながらに、味わい深いな~、と思った。この作品、出演は笠智衆以外に、杉村春子、杉浦直樹、倍賞美津子、樹木希林、加藤嘉、五大路子などで、今書いていても思うが、小学生が見るようなドラマの役者じゃないシブさ。また、大御所が多いので、出演者が亡くなるたびに、追悼番組として再放送されたこともあり、リアルタイム以外でも何度か見た。一番最近の再放送は、樹木希林が亡くなった2018年だったと思う。そして、原作・脚本が山田太一、音楽は武満徹。どんだけ大物だらけなんだ…。昨年末、山田太一が亡くなったことで、年末にまた追悼再放送があった。再放送を何度もしているので、私が見るのはたぶん10数年ぶりくらいだと思うけれど、久しぶりに見た。

(以下、ネタバレ)
【あらすじ】※個人的解釈・省略あり
主人公(笠智衆)は83歳になる高齢男性。53歳になる一人息子(杉浦直樹)が成人になった30年ほど前、妻(杉村春子)とは離婚した。リタイア後は長野県蓼科で一人暮らししている。妻は離婚後、再婚したが10年ほど前に再婚相手に先立たれ、今は小さな居酒屋を女性店員(樹木希林)に手伝ってもらいながら細々と暮らしている。
一人息子は都内の建設会社に勤めているが、ある夏の日、嫁(倍賞美津子)から入院したことを知らされ、主人公は見舞いに上京する。病院で、嫁とともに医者から息子の余命が3ヶ月と知らされる。嫁は夫が病気になる前に離婚したい旨を伝えていたが、亡くなるまでは夫に尽くす事を決意する。また、最初は元妻には内緒にしているが、やがてバレてしまう。さらに、家族が献身的に看病するので、息子本人にも自分の余命が3ヶ月であることがバレてしまう。
ある夜、主人公が看病しているとき、息子が「蓼科、いいだろうなぁ」とポツリとつぶやく。主人公は、深夜病院を抜け出しタクシーで息子と蓼科に向かう。翌朝、息子の母である元妻は、主人公の行動に激怒、すぐに連れ戻すと言い、次の日女性店員の運転で蓼科に向かう。しかし、連れ戻すつもりで行ったものの、息子の穏やかな姿を見て、しばらく蓼科で過ごすことをゆるす。そして嫁と孫も蓼科に集い、束の間の家族団らんを囲む。
季節はめぐり、秋。息子は蓼科で他界し、葬儀も終えたようだ。最後まで残った元妻もこの日の朝、東京に帰る。タクシーを呼び、待つ間に主人公は「ここでまた一緒に暮らさないか」と誘うが、元妻も意地があるのでそれは受けないものの、また来月あたり寄らせてもらうかも、と思わせぶりな対応。
いずれにせよ、再び高齢男性一人の暮らしが戻ってきた。紅葉の蓼科で主人公が一人で股引やシャツなどを取り入れるシーンでドラマは終わる。

すでに何度か見たドラマで、それまで笠智衆演じる主人公のさみしさ、それでも淡々と生きる姿が印象的だったが、今回、ドラマの中の「息子」の年齢に近い歳になって見ると、「息子」に対する共感が強くなっていた。息子役の杉浦直樹が「会社に貢献しても、みんなそんなことはすぐに忘れる。変わりはいくらでもいる。」とさみしそうに話すシーンは、昨年会社の裏切り行為を経験した私としては、強く心に刻まれた。

また、息子が余命を知ったのち、「最後に見苦しい姿、見せたくないよ。」と高齢の父親に話すシーンは、昨年11月に亡くなったKANさんの最後の半年と重なり、余命がわかってからの生き方をどうすべきか、という点を考えさせられた。

このドラマが最初に放映されたのは、1987年(昭和62年)。当時は、余命わずかであっても、まだ医師から本人にはそのことが伝えられず、本人に告知するか否かは家族の判断に委ねられていた時代。現在は患者に告知することが一般的になっているが、本人や家族の葛藤もうまく描かれていると感じた。

さて、連続16日間続いた更新も、今回までということになりそうです。
ただ漫然と休みを過ごす例年に比べ、少しは有意義になったかな、と思います。また、お会いしましょう。


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