上を向いて歩こう。下を向いて眠ろう。

「お前、近いうち病院行ったほうがいいよ?」

午前9時、沼津の格安ホテルの一室。
起床した僕と、僕の友達。
前日は夜サウナに入り、12時にはベッドに入ったので、
本来ならば、つかれもバッチリ取れて、心地の良い朝を迎えているはずだ。
例えば鳥のさえずりに気付けるような。
例えばとりあえずoasisでも聞こうか、とレコードに針を落とすような
そんな心地の良い、やわらかくて幸せな朝を。

しかし、僕も友達も疲れが全く抜けていない。

僕にとってはいつもの事だ。
最近、寝ても寝ても疲れが取れない。
「寝ても寝ても」と言っているが、正確にはそうではない。
「寝ても寝ても」なんて言うほど、私は眠れていない。

夜中に何度も目が覚めてしまう。中途覚醒というやつだ。
私はここ1年ほどこれに悩まされている。

こいつのせいで、久しく熟睡感を得られていない。
何時間睡眠のために時間を取っても、眠りに着いては、途中で起きて、眠りについてはまた起きての繰り返しで
あんまり眠れていないのだ。

覚醒から覚醒の間の束の間の睡眠も
(これは体感でではあるが)恐らく浅い眠りでしかない。
深い眠りにつくことも出来ず、浅い眠りすら何度も途切れてしまうので
まともに眠った気がしないのだ。

ネットで調べたことと、自分の生活を照らし合わせて見る限り、恐らく精神的な部分に所以して、この中途覚醒が発生しているのであろう。
図体は図太いが、意外と精神的に繊細な自分は
仕事等様々な部分で、もしかしたら自分が思っているよりずっとストレスが溜まっており、
精神的に参ってしまっているのだと思う。

睡眠薬も毎日飲んでいるが、全く良くなる兆しが見えない。
もうしょうがない、と正直半分諦めている。


この日の夜も、いつも通り複数回に渡る中途覚醒により、あまり良く眠れなかった。
それ故に、僕が「疲れの抜けていない朝」を迎えているのは
いつも通りの事である。鳥のさえずりやwhateverを寝起きで聞けるのは
僕にとっては夢のまた夢だ。



しかし何故、友人も疲れが取れていないのであろうか。
話を聞くと、彼もあまり眠れなかったそうだ。
ただ一つ、僕と違うのは
僕にとってはあまり眠れないのは日常であり、
彼にとっては、非日常である事。

彼は日頃から睡眠障害に苦しんでいるという訳ではないというのだ。

では、何故彼は眠れなかったのか。


申し訳なさそうに彼は僕に言う。
「お前のいびきがうるさくて眠れなかったんだ」



僕は驚いた。
あんまり深い眠りにつけていないので
いびきをかいているという自覚が全くなかったからだ。

どうやら僕は浅い眠りの中でも
すごくイビキをかくらしい。
しかも、かなり大きな音で。



そして彼は続ける。
イビキの音を聞いたり、僕の寝息を聞いた感じからして
お前は多分睡眠時無呼吸症候群だ、と。

彼の話によると、僕のイビキは
睡眠時無呼吸症候群を患っている彼の父親のソレと、全く同じらしく
また僕は寝ている時、定期的に呼吸が止まっているらしい。


確定だ。
イビキの音の感じだけなら言い逃れの道はいくらでもある。
しかし、寝ている時定期的に呼吸が止まっているまで言われたら
それはもう睡眠時無呼吸症候群で確定ではないか。

図体は図太いけど心は繊細だとか抜かして来たけど
心が繊細であることなんて関係なかった。
図体が図太過ぎるから眠りながら呼吸が出来ず、途中で起きてしまっていたようだ。
思っていたより溜まっていたのはストレスではなく喉周りの脂肪だった。



冒頭のセリフも、この際彼に言われた言葉だ。
彼も病気に詳しいわけではないが、どうやら僕の呼吸が止まってる時間はかなり長く、心配になる程の物だったらしい。

そして、冒頭のセリフに続けて、彼は僕に教えてくれた。


病院に行って、CPAP(睡眠時無呼吸症候群の治療器具)を借りるまでの間は
しばらく上を向いて眠るのは辞めた方が良いと。

詳しい説明は覚えてないけど、上を向いて寝た方が呼吸が止まりやすくなるらしい。

涙がこぼれないように、上を向いて歩こう。
呼吸が止まらないように、下を向いて眠ろう。

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