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04.管に怯える一日

翌日は、いつも通り会社に行き、いつも通りに過ごす。なんてことない日常、わたしの気持ちもいつも通り…なわけがなく、昨日聞いた手術の話に、改めてビビリ上がっていた。何が怖いのかというと、術後一週間程度、鼻から胃まで管を入れっぱなしにしなくてはならないということである。
 
舌の手術の場合、当然ながらしばらくは口から食事を摂ることができない。しかし、人間という生き物は、胃に食べ物を入れて胃腸を動かすことが非常に重要らしい。点滴などで栄養を摂るのではなく、胃に食べ物(飲み物)を入れて胃腸を動かすことが早期回復につながるんだとか…。
理屈は分かったが、はいそうですかと受け入れられはしない。なぜなら、わたしは鼻から管を入れられることが、驚異的に苦手なのである。どのくらい苦手かというと、鼻から管を入れるくらいなら一週間お風呂にもシャワーにも入れない方がましだと思うくらい苦手である。(例え話が壊滅的に下手な人種。)過去に2度、鼻からの胃カメラをやったことがあるのだが、これがもう、看護師さんやお医者さんにちょっと引かれるほど大変だったのだ。昨日受けた内視鏡もしかり。一般の方よりも鼻の奥が狭いらしく痛いうえ、のどの異物感も苦手ですぐに嗚咽してしまう。
それなのに、一週間も管を入れっぱなしだというではないか。無理ゲー中の無理ゲーだ。昨日聞いた時点で不安ではあったものの、こなすタスクが多すぎてその不安を構っていられなかった。しかし、心にこそっと住みついた管への不安は、落ち着けば落ち着くほど顔を出す。家に帰ってからはずっとそのことが気がかりで、パートナーに延々いやだいやだと言い続け、母に電話し他の手段がないものかと泣きついた。(母は看護師である。)
それでもちっとも打開策が見えず(そりゃそうだ)にぐずぐず過ごしていたのだが、看護師さんの「不安なことや気になることがあったら、いつでも電話してね」という言葉を思い出し、これは直接対決するしかないという結論に到達したのであった。(いちいち物騒。)
 
ということで、出社するなり病院へ電話をかける。不安に支配されていて仕事どころではないのだから、悪しからずご了承願いたい。
コール音からの、音声ガイダンスからの、電話交換手からの、保留からの、状況確認からの、保留からの…と数々のステップの後、ようやく頭頚部外科の看護師さんと話すことができた。
 
「こんにちは!どうしました?」
 
もう、この一言を聞いただけで忙しそうな雰囲気が感じ取れる。優しさの裏に見える忙しさ…申し訳ない……がしかし、わたしも不安で忙しいのである。めげずに切り込まねば。
 
「昨日お話のあった術後の管が、どうしても不安なんです。(中略)点滴とか、他の方法ってないんでしょうか…?」
 
わたしがいかに鼻から管を通すことが苦手であるかを熱弁し、不安で夜も眠れないと訴えた。(まぁまぁ寝たけども。)
 
「そうですねぇ。他の方法かぁ…点滴ねぇ……なくはないと思うけど…うーん…先生に確認して、折り返しご連絡してもいいですか?」
 
歯切れ悪めの看護師さんの話に、やっぱり管しかないのかな…と悲しくなりつつ、折り返しの連絡を待つことにした。
 
しばらくして病院から着信があった。待ってましたとばかりに電話をとると、電話口にはさっき話をした看護師さんがいた。
 
「先生に話して、他の方法がないかも含めて聞いてみました。点滴というのもできなくはないけれど、やっぱりおなかに食べ物を入れて胃腸を動かすことが早く治ることにつながるので、管を入れた方が結果的にいいんじゃないかな、というのが先生の見解でした。」
 
やっぱり管なんだ…とがっかりして泣きたくなる。わたしの落胆した様子を察して、看護師さんは続ける。
 
「管が苦手なのは先生にしっかり伝えたし、昨日辛そうなのも見ているから先生もちゃんと分かっているよ。管っていっても、昨日のカメラよりも細いものを使うし、入れるのも手術中、麻酔が効いているうちに入れちゃうから痛くないよ!」
 
そうは言ってもなぁ…と思いつつ、やってみてもないことで、いつまでもグダグダ言ってはいられない。とりあえず、嫌だということはわかってもらえたし、管も細いらしいし、麻酔の間に入れてくれるみたいだし、大丈夫でしょう…。看護師さんにお礼を言って電話を切る。また何か不安なことがあったらいつでも電話してと言ってくれたので、額面通りに受け取って心の支えにした。
心のもやは晴れないが、この日の夜は、前夜に比べると穏やかに眠れた気がする。どんだけ恐怖なんだよ、管。
 
 
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2022.09中旬のお話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ、また別の記事でお会いしましょう!
 

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