裕次郎と旅した夏
父の故郷は山陰の出雲の神さまがいるところ。
私は九州生まれの九州育ちだが、島根が故郷だと思っている。
おじさんおばさん、いとこたち。島根には親戚がたくさんいる。私とは血の繋がりがないけれど、、懐かしくて大切なかけがえのない人たち。
島根の人はみな親切で、穏やかで素朴。どこへ行っても癒される風景と、優しい笑顔の人々の印象しか残っていない。
祖父がなくなり、3歳で天涯孤独になった父は、祖父の内縁の妻だったカメヨさんに育てられた。
小4の夏休み。
私は、今はもう廃線になったさんべ2号に1人乗る。カメヨさんがいるところまで9時間の汽車の旅です。
小倉から西長門の海沿いを通る時、目が覚めるようなエメラルドグリーンがキラキラと続く。
わぁ!!綺麗!!!
海が大好きになったのは、満開の山百合のオレンジとエメラルドグリーンの美しい世界を、車窓から見たこの時からだ。
ガラガラの車両。貸切で海を眺めていると、隣車両で宴会しているおじさん達がやってきた。
「どこまで行くの?」
「松江です。」
「あんた1人で??」
子供の頃は人が好きだった私。人懐っこく海の話をする。そして頃合いをみて、当時のおじさんのハートを鷲掴みのあの言葉でとどめを刺す。
「おいちゃん石原裕次郎に似てるね(・∀・)」
「そう?似てるかな(≧∀≦) おじさん達も松江まで行くからこっちにおいで。お菓子もジュースもいっぱいあるよ!」
ガッツポーズしてついて行くと、食べきれないほどのスルメや貝柱をくれた笑。
「1人でお婆ちゃんに会いに行くって?えらいねぇ。これお土産に買ったやつだけど、お婆ちゃんにあげな。」
母に私の事を頼まれていた車掌さんも、時々様子を見にきては、裕次郎にスルメもらって楽しそうに笑っている。
裕次郎たちに遊んでもらっていると、
あっという間に松江に着いた。
「ばぁちゃ〜ん!あのおいちゃんが、こればぁちゃんにって。」
大きな博多ぶらぶらの箱が入った紙袋を手渡すと、カメヨさんは走って裕次郎たちを追いかけた。
みんな笑っていて、私の事を何やら裕次郎たちが話している様子。
少し離れた場所にいた私の所へ戻ってきたカメヨさんが、一枚の千円札をくれた。
「みぃちゃん(本名w)が良い子にしてたからって、おじさんから^ ^」
見ると大きな旅行カバンを抱えた裕次郎たちが、満面の笑みで手を振っている。
私は走り出し、勢いよく跳ねて手を振る。
「おいちゃーん、千円ありがとう!帰りも一緒に帰ろうね!」
「おじさん達は松江に家があるから、ここでバイバイよ。またね^ ^」
昭和のよき時代。裕次郎は「またね。」と言っていたけど、2度と会うことはなく40年の時が過ぎた。
それでも今でも鮮明に思い出す。あの笑顔と一緒に眺めたエメラルドグリーンの海。
裕次郎たちと過ごした数時間の旅は、私の心の中で永遠に続く、幸せで優しい夏の思い出となっている。
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