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需要と供給は絶対的な相関関係にあるのか

MMTの功績というのは貨幣観の転換と思われている人たちが大多数だとおもうんだけど、実はそれだけではないですというのを書こうと思います。

こういったことは、自分よりも先のnoteでも紹介したリッキーさんとかのほうがはるかに詳しく説明されているので、そっちのブログを見たほうがいいし、自分なんかはもう特に書かなくてもいいとも思うんだけど。なんなら間違ったことを書いてしまうかもしれないしね。

ま、でもそれでも書いてみようと思います。

たとえば、三橋貴明さんが代表的なんですけど、政府の赤字支出のリミットはインフレ率だというんですね。

けど、三橋さんはインフレ率と国債の累積はシンクロしていないとグラフで説明しています。

なのに、政府の赤字支出のリミットはインフレ率だというんです。

不思議ですよね。

国債発行残高とインフレ率、このふたつだけを抽出してみてみると、たしかに絶対的な相関関係にあると考えられるような時期が歴史上にあると思います、逆に今みたいに何の相関関係もないように推移する時期もあるんですね。

たとえば、ある国の警察官の人数と犯罪発生件数だけを抽出してみると、警察官の人数が多ければ多いほど、犯罪件数は多くなっているから警察官は少ないほうが犯罪は減るのではないかと考えられることも可能でしょう。

しかし、ここに人口の推移を追加すると、警察官の人数と犯罪発生件数以前に人口が増加したために、警察官の数と犯罪発生件数の伸びが比例していただけとなります。

これは国債発行残高とインフレ率にもいえますよね。

あと、前日のnoteでも書いたインフレ率と失業率(フィリップスカーブ)にもいえます。

ある時期だけ、このふたつが絶対的な相関関係にあるように動くということはありえる。

だけど、だからといって、双方に絶対的な相関関係があると決めつけてしまうのはいかがなものか?

というのが、貨幣観とは別のMMTの物事の見方です。

何かふたつのものだけを取り出して、それを縦と横の線に収めて、数字をつけ、斜めの線を引いたところで何もわからないんじゃないのかって。

つまり、今現在、相関関係にないのであれば、相関関係はないってことなんですよ。国債発行残高とインフレ率って。(ただ、マネーサプライの増加はインフレは直接的な関係はないものの、間接的には影響を与え得るとはしてますね。こういうこというからややこしいんだと思います。以下のリンクのブログにそのへんについて詳しく書かれてます。)

経験的な証拠では、マネー・サプライと物価の間に期待すべき強い相関関係は、長期においてすら、存在していない
インフレーションとマネー・サプライ成長率の間に正の相関関係があるという事実からは因果連鎖の方向については何も知ることができない。

でも、三橋さんはそうは考えていなさそうですよね。

たぶん、三橋さんはインフレになっていないのは量(需要)の問題だと考えているんだと思います。(とはいえ、最近三橋TVを見てないからわからないけど、望月慎さんが出るようになってちょっとは変わったかもしれないし)

これってつまり、MMT的なものの見方ではないんですね。

で、MMT的な見方で覆ってしまう代表的なもの。

それが、

『需要と供給の関係』

です。

多分、経済学を勉強したことがない人でもわかると思います。

この世の物価というのは、

売り手がこの値段ならば売ってもいいと思える値段と

買い手がこの値段ならば買ってもいいと思える値段の

均衡点で決まる。(めちゃくちゃテキトーだな。マンキューの教科書から引用すればいいものの、いま手元にタブレットがなくて)

例えば、財政論をめぐる議論のなかでたびたび登場するインフレーションについてですが、wikiではこのように冒頭説明されています。(wikiには寄付してるし、引用してもいいよね)

経済学では、一定期間にわたって経済の価格水準が全般的に上昇することをインフレーション(英語: inflation、物価上昇、インフレ)と呼ぶ[1] [2] [3] [4]。一般的な価格水準が上昇すると、1単位の通貨で購入できる財やサービスの数が減る。その結果、インフレーションは1単位の通貨あたりの購買力の低下、つまり経済における交換手段や会計単位の実質的な価値の低下を反映する

経済における交換手段や会計単位の実質的な価値の低下を反映する。

むずかしいけれど、つまり、お金の価値が低下することなんですね。

なので、インフレは色々と要因はあるけれど、
とりあえず世の中のお金の総量が増えると、お金の価値が減って、需要と供給の関係で物の値段が上がってしまう(自然成長率を上回ってしまうとだったかな。自然成長率ってなんやねん)ということです。

で、今書いたこと全部なんですが。

それほんとか?

というのが、MMTというレンズを通すと見えてくるんですね。

そもそも、ランダルレイのMMTの入門書を読めば分かりますが、インフレについて言及してないですよね。

なぜなのかですが、それはおそらくレイはインフレについて考える必要はないと考えているからだと思います。

MMTにおけるインフレーションへの理解というのは、ジョンメイナードケインズが書いた一般理論の21章に書いているのとほぼ同じだと思います。

今から、70年ほど前の1950年代から1970年代というのは顕著なインフレーションが発生していた時代でした。(今もこの時のインフレーションの印象を引きずっている人たちって多いんだろうな。オイルショックでコーヒーの値段が一晩で倍になったエピソードが伊藤元重さんの著書にでてくるし)

インフレーションとは様々な理由によって発生するが、MMTではかつてのインフレーションは

賃金と利潤の対抗関係のスパイラルによって引き起こされたとされています。

つまり、こういうことです。

インフレーションが顕著だった時代は労組が結成され、また、失業率も低く、労働者の交渉力はかつてないほど強力だった。(Netflixで配信されているアイリッシュマンとかみたら熱気がわかりますね)

1.労働者は交渉力を行使して、企業(雇用主)に対し賃上げを要求する。

2.強力な交渉力に対して、企業は賃上げに応じざるえない。

3.労働者の賃金は増えたけれど、賃金というのは企業にとっては費用。

4.企業は賃上げによって増えた費用を商品価格にマークアップ、つまり値上げをする。

1.に戻る。

簡単ですが、これがMMTで説明されているかつての顕著なインフレーションのメカニズムです。ほかにも原材料費の高騰や、原油価格上昇とかもあるけど、たいていそういったものは一時的なもので終わるそうです。

以下はレイの論文からの引用です。

今日のグローバル経済においては、インフレ制約はあまり大きな懸念ではない。
第一に、多くの国々が貿易収支を黒字化するために、国内需要を抑制し、世界の過剰生産物に対する需要を米国に頼っているので、世界中でデフレ圧力が大きくなっている。※1
最も重要なのは、世界の輸出国の多くが非常に低賃金で、それが世界中の物価を低く抑えていることである。
これは米国企業が厳しい価格競争にさらされており、クリントン政権期の景気拡大や世界金融危機の前の数年間に再び経験したような比較的急速な経済成長であっても、大きなインフレ圧力を生み出さなくなっていることを意味する。※2

第二に、技術進歩と貿易制限の撤廃は、海外からの賃金競争を激化させ、低失業が賃金・物価スパイラルを生む可能性が低くなった。

最後に1970年代と1980年代の生産性の伸び悩みに対する懸念の多くは、生産性成長がより正常な長期的平均にもどったクリントン政権期の好景気の間に消滅した。
それどころか、生産性のグローバル化のせいもあって、1970年代半ば以降は平均賃金の伸びが労働生産性の伸びを遥かに下回っていることが問題となっている。
このような競争圧力が賃金の伸びを生産性の伸びに一致させている限り、価格上昇圧力はおだやかなままであろう。

※1だから、米国は貿易赤字だよ
※2 賃上げ無き経済成長

というのが、ランダルレイの論文内に書かれていた現代のインフレーションに関する見解です。
つまり、現代のグローバル化された経済下において、特に先進国ではインフレーションが起こる余地はないんですね。(そりゃ、株式や不動産といった資産価値が上がることはあるけど、それを物価と言われてもなぁ。とか言いながら、最近原油価格がじわじわとあがってきているし、、、)

読む限り、単に需要と供給の問題や、貨幣の流通量の増減ではなく、生産体制や社会構造が変化したためにインフレーションは起きないだろうとされていますね。(それにこの引用文からはデフレになるメカニズムも読み取れますね)

かといって、需要と供給はお互いに全く影響をあたえていないのかというとそうではない。

ただ、主流派経済学で考えられているほどに絶対的な相関関係にあるわけではないし、そもそも総需要と総供給というのはそれぞれ別々の要因できまってしまうものである。

というのが、MMT、というかリッキーさんの言葉なんですが。

で、最初にもどって、MMTの功績というのは、貨幣観だけでなく、こういった無意識のうちに主流派経済学のレンズを通して、社会や物事をみてしまっていることへの警鐘なんですね。
(ケインズが言ったように、現代人は皆等しく過去の偉大な経済学者の奴隷である。ケインズ自身もそうであったように)
だから、それ自体を疑えということだと思います。

とはいえ、リッキーさんも言っているのですが、日本で出ているオリジナルMMTerが書いた著書って、

ランダルレイの入門書

おなじくランダルレイのミンスキー本

ステファニーケルトンの財政赤字の神話

の三冊しかないんですよ。

もちろん、翻訳者が完全にMMTを理解しているわけでもないし、自分なりの言葉、解釈で書いてしまっているところもあるでしょう。

つまり、現状の書籍からはなかなか生の情報って入ってこないんですよ。

で、原典を読むのって、なかなか難しいんですけど、いまはgoogle 翻訳がかなりの精度にまでなってきているので、レヴィ研究所のホームページで公開されているランダルレイの論文なりを自分で翻訳して読むくらいはできるんです。

なので、気が向いたら、試しにひとつ論文をgoogle 翻訳にコピペしてみるのも良いかなと思いますね。

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