ＩＴ🎈 Chapter1、Chapter2考察メモ～ベバリー・マーシュ編

この記事では、ITの登場人物のうちベバリー・マーシュについての考察を執筆します。最初の記事、および分岐はこちらのページをご参照ください。

🎈ベバリー・マーシュとは

ベバリー・マーシュは、赤毛の女の子でルーザーズでは紅一点の存在です。学校の女子グループや、父親などから辛い目に合わせられていますが、気が強く冷静で、芯の通った性格をしています。未成年者ですが、喫煙をしていることが特徴です。Chapter2では、父親に似た夫に虐待されています。

🎈ベヴ：子ども時代

ベヴは、学校でもいじめられ、家でも父親に虐待され、居場所が無い女の子です。家では、父親に性的虐待をされているような描写があり、亡くなった母親（父親にとっては奥さん）の面影を重ねられています。父親は特にベヴの男性との交友関係を気にしているようで、ベヴを束縛しようとします。

学校では、ベヴの女子グループとの関係は悪く、トイレでゴミを浴びせられたり、ありもしない噂を流されています。学校生活のコミュニティからの疎外を中心とした、女子らしいいじめです。思春期の女子グループにおけるこうしたいじめは、決して珍しいことじゃないと思いますが、ベヴの場合は自分に意見に嘘をつかない性格で、馴れ合いもしなければ他者への攻撃もしない（やり返さない）一匹狼タイプだから標的にされているのかな、と思います。

そうした支配と疎外からベヴを救ったのがルーザーズクラブでした。ベヴは負け組の男の子たちを気に留め、自らその輪の中に入っていきます。

しかし、ただ支配・疎外から守られるだけではないのがベヴです。
Chapter１のネイボルトハウスではビルを助け、Chapter2の大人時代では鏡の中で殺されかけたベンを救います。Chapter1では自分を束縛する父親を殴って気絶させますし（＝親殺し、自立のモチーフ）、Chapter2でも暴力的な夫に対して同じことをします。さらにペニーワイズと対峙したときも、Chapter1では踊っているのをガン無視して逃げようと試みますし、Chapter2で自宅に表れた化粧前のペニーワイズにくたばれ！と言ってのけます。
支配と疎外によって鍛えられた強い女です、ベヴ。

子どものベヴは、鍵の形をしたアクセサリーを身に着けています。鍵は、アメリカ的なラッキーモチーフで、家族との距離を縮めるという意味もあります。虐待されてはいましたが、父親を愛し、理解したいと思っていたのかもしれません。それとは別に、ルーザーズが疑似家族であることを考えると、ルーザーズとの絆の象徴であるとも言えます。

また、煙草もベヴのモチーフです。学校、家庭、街、どこへ行っても辛い目に合うストレスフルな生活を送っているため、喫煙が始まったのかもしれませんが、火というキーワードを持っていると考えると、「君の髪は冬の炎」とも重なります。暖かさを愛と置き換えることができれば、居場所のないベヴが欲していた暖かさであるとも言えます。

🎈ベヴ：大人時代

子ども時代に父親を殴って絶ったはずの他人からの束縛ですが、やはりエディと同じで、親と似たような結婚相手を選んでしまいます。
しかし相手を殴って撃退し、結婚指輪も置き、夫との関係を清算した状態でデリーに来るところがベヴらしいです。

職業はファッションデザイナーのようですが、夫の仕事で、彼女の望んだ職ではないはずです。デリーで来ている服装は、もしかすると自前の服ではないかもしれません。

余談ですが、彼女だけではなく大人時代のルーザーズは、カッチリした大人っぽいファッションをしています。ベヴもカジュアルなスーツです。しかしペニーワイズとの戦いを経て、ラストに向かってだんだんと子供時代と似た服装になるところが、よく考えられているなと思います。Chapter2の冒頭とラスト、そして回想シーンでの子ども時代の服装を見直してみてください。

もう1つ、大人ベヴのまわりには映画『シャイニング』へのオマージュが頻発しているような気がしています。決定的なのは、Chapter2終盤でトイレに閉じ込められるシーンでの、ドアから除く父親たちの顔と、ヘンリーの「お客様だ！」というセリフ。あと、ホテルでビルと話しているときに現れるディーン（ミラーハウスで襲われる巻き毛の子）のスケボーの裏面デザインが、『シャイニング』のホテルの床の柄になっていました。
また、子ども時代にデスライトを浴びたことで、ルーザーズの中ではただ1人未来予知の能力が備わったこともシャイニングの能力に近いように感じます。その他には、トイレで溢れる血（シャイニング：エレベーターから溢れる血）、鏡の中のペニーワイズ（シャイニング：鏡がキーワード）、老婆に襲われる（シャイニング：237号室の老婆）などです。暴力的な父親と対峙する子どもであるところも共通しています。

ベヴに関して『シャイニング』と重なるテーマというと、舞台ITのデリー/シャイニングのホテルで起こる暴力と支配の連鎖から逃げ出す、もしくは食い止めるということでしょうか。
ベヴはデスライトを浴びていた、こちらの世界（現実の世界）/あちらの世界（この世のものではない世界、ITならペニーワイズの作る世界）の橋渡し役でもあります。

『シャイニング』もウェンディという女性目線で描かれるホラー映画なので、ベヴ目線のときにオマージュが頻発しているのかもしれません。また『シャイニング』のダニーのテーマが「幼少期のトラウマ」、そして続編である『ドクター・スリープ』での「トラウマ克服」であることは、ITにおけるルーザーズにも重なります。

とはいえ、『シャイニング』はいろいろな映画でオマージュされていますし、原作が両方キングということもあるので、そんなに大きな関係は無いかもしれませんが、気にして観ると新たな発見があるかもしれません。

🎈思い出の品

そうしたベヴにまつわるテーマは、愛であると思います。家族にも、友人にも誰にも愛されていない中での救世主がルーザーズであり、子ども時代のビル、そして思い出の品でもある「君の髪は冬の炎」のラブレターなのです。ラブレターはベンが書いたものですが、ベヴはChapter2の終盤までビルが書いたものと思っています。

ラブレターは初恋の思い出であり、青春時代の性的ではない真実の愛、唯一幸せな出来事だと思います。ただしラブレターをもらうほど、女性になってしまったという意識をした思い出でもあるかもしれません。

しかし、ベヴはベンのように初恋のラブレターを携帯してはいませんでした。ラブレターと、鍵のネックレスは実家に隠しておいたようです。
デリーを発って新たな人生を始めようとするとき、ラブレターが持つ「初恋の良い思い出/女としての悪い思い出」、鍵のネックレスが持つ「ルーザーズとの絆/父親との関係」を断ちたかったのかもしれません。
大人びているベヴは、子ども時代のことは子ども時代のこと、と割り切っていたと推察できます。また、両アイテムに良い思い出もあるけれど、悪い思い出もあるからであるとも思います。もしくは、デスライトの悪夢を思い出さないためでもあるかもしれません。

また、Chapter1でベヴが誘拐されること、デスライトを浴びて動けなくなったベヴがキスによって目覚めること、古典的な童話に則っていると思います。眠り姫や白雪姫などです。真実の愛の物語、「めでたしめでたし」で終わる物語を体現していることも、愛がテーマである描写の1つと考えられます。実際に、自身もめでたしめでたしで終わっていることがスゴイですね。

しかし童話的なモチーフには、男尊女卑的な考え方（王子様がお姫様を迎えに来る、など）も含まれることに留意したいです。女性であることが、ベヴにとっての呪縛なのです。

愛に関するモチーフは槍に表れていると思います。ネイボルトハウスで、子どものころにビルを助け、大人になってベンを助ける槍です。この槍でペニーワイズを撃退するときには、信じる力が大切であるとベヴ自身が説明します。これは、愛する人（運命の人？）を助ける槍なんだと思います。
この槍は、Chapter2、ペニーワイズの巣の手前でエディへ渡ります。

🎈恐怖の対象

ベヴが1人のときに襲われるのは、子ども時代と大人時代1回ずつの計2回です。

そのうち子ども時代のほうは、洗面台から血が噴き出してバスルーム全体が血まみれになるという大変ショッキングな脅かし方です。その前のシーンで、薬局で生理用ナプキンを買っていること、また、薬局の店主を色仕掛けで騙していること、父親に生理ナプキンを見られること、そして洗面台で髪の毛を切ることを見ると、ベヴの恐怖は「女であること」だと思います。
それはつまり、娘であること、妻であることであり、父や夫に支配されることなのです。Chapter2では思い出の品を探しに行ったルーザーズがそれぞれ昔の出来事をフラッシュバックさせますが、ベヴだけはペニーワイズ関連でなく、父親との関係でした。また、実家にいた老婆も父と娘の関係を話していました。

そうした支配の恐怖から脱却できる、対等な関係でいられる場所がルーザーズなのです。その解放感は、Chapter1の湖で、下着姿でいたことにも表れていると思います。

Chapter2の終盤の、トイレに閉じ込められるシーンは、Chapter1の冒頭のシーンのリフレインですが、「逃げ場がない、居場所が無い」という恐怖であるとも言えます。トイレに血が溢れてくるのは、やはり女性である象徴・生理だと思います。「女であること」の痛みの部分です。
ドアに現れるのは、父親、旦那のトム、グレッタ、ヘンリーです。ヘンリーは、子ども時代にロックファイトの前、ベヴの噂についてからかったこともあります。総じて、4人も「女であること」の痛みの部分なんだと思います。

以上が、ベヴに関する考察です。