ＩＴ🎈 Chapter1、Chapter2考察メモ～デリーとペニーワイズ編

この記事では、映画ITに関する私の考察や気づきを記事にまとめます。

ITはホラー映画というジャンルですが、ホラーの枠を超えた奥深いテーマがたくさん潜んでいます。それらについて気づいたことを、私の考察ベースで、主要登場人物別に執筆します。ネタバレも惜しみなくしますので、鑑賞済みの方が新しい鑑賞のベクトルを見つけるための記事になれば幸いです。

分岐ページ（登場人物別）のリンクはこのページの最下部にあります。

🎈物語の登場人物と舞台

まずは、映画のざっくりとしたあらすじをおさらいします。
主人公はビル・デンブローという少年で、雨の日に弟のジョージーを1人で遊ばせ、その結果ジョージーはペニーワイズに食べられて死んでしまいます。ビルは、友達のリッチー、エディ、スタンと共に、夏休み中、ジョージーの失踪原因の解明に臨みます。夏休みには、ベヴ、ベン、マイクと友達となり、7人でルーザーズ（敗者）クラブを結成し、どうやら下水道に住むＩＴ＝ペニーワイズが諸悪の根源だと突き止めます。そして、誘拐されたベヴを助けに向かった先で、ペニーワイズをボコボコし、夏休みを終える…。
そんなお話でした。

主な登場人物は、ルーザーズクラブの7人です。メンバーは、主人公で吃音のビル・デンブロー、お喋りメガネのリッチー・トージア、潔癖症でママっ子のエディ・カスプブラク、臆病で慎重派なスタン・ユリス、気が強い女の子のベバリー・マーシュ、肥満気味で内気なベン・ハンスコム、そして黒人の男の子マイク・ハンロンです。Chapter1では子供時代、Chapter２では大人時代の姿で登場人物します。
ルーザーズクラブと密接に関わるのが、いじめっ子グループの主犯格、ヘンリー・バワーズです。襟足を伸ばした髪型と、ポケットナイフがトレードマークです。彼もChapter1、Chapter２両方で、ルーザーズの敵として活躍します。

そして、何と言っても外せないのが、正体不明のピエロ、ペニーワイズでしょう。本ページでは、ペニーワイズとルーザーズたちが暮らすデリー、そして主要キャラクターであるペニーワイズについてのことを書こうと思います。

🎈下水道にはなにかが潜んでいる！

ペニーワイズは、chapter1の冒頭でジョージーの前に現れたときのように、地下や水回りによく現れます。Chapter1でも、ベヴのときにはバスルーム、ビルやベンのときには地下室でした。Chapter2では、デリーの子どもがいる家庭のバスルーム巡りをしているらしき証言もありました。
ペニーワイズは古くからデリーの地下深くに住んでいて、人間が住む地上に出るときに下水道を使って上がってきます。ペニーワイズの根城であるネイボルトハウス（Chapter1でエディが腕を骨折する家）は、その家自体がペニーワイズの巣なのではなく、井戸によって地下と繋がっています。

ここで、井戸と下水道についてのお話です。
井戸というのは、人間に生活用水を与える場所＝神聖な場所である他、地下世界、つまり黄泉の国（あの世）への入口と考えられています。
日本の文化でも、番町皿屋敷のお菊ですとか、リングの貞子が井戸から出てきます。これらは、井戸が死者世界と現世を繋ぐ媒体になっている例と言えるでしょう。西洋世界では聖書に井戸が多く登場するようですが、井戸よりも下水道の都市伝説が有名でしょうか。アメリカではニューヨークの下水道に巨大ワニが住んでいるという都市伝説があります。また、IT以外の映画でも地下世界に秘密の組織ないし施設がある映画がたくさんあり、下水道や地下という空間に神秘性を見出していることが伺えます。

ペニーワイズに話を戻すと、デリーの地上が人間の現実的な世界だとすれば、「異界」である地下から井戸を通じてペニーワイズはやってきます。ここから、ＩＴにおいても地下への神秘性、異界性、そして異世界と現実を繋ぐ井戸と下水道の役割を見ることができます。

🎈恐怖と水

濡れるという行為にも注目します。
ITではChapter1冒頭の雨の日のシーンがそうであるように、濡れるシーンが多数出てきます。ペニーワイズのお住まいである下水道が水浸しなのはもちろん、Chapter1のビルの家の地下、バスルームで血塗れになるベヴ、河原でペニーワイズを目撃するマイク、Chapter2雨の中歩くベヴ、バスルームで自殺するスタン、バスルームでヘンリーに襲われるエディ、ペニーワイズとの決戦で水に潜るビル…といった具合です。これらは、ペニーワイズが水回りに現れるということ、そして水回り自体が凶兆であることを表していると考えられます。

ただし、ペニーワイズは湖には現れません。Chapter2のラストでもそうだったように湖は「清めの水」になっているのです。たしかに、湖には下水道は通っていないと思いますし、下水道の水が入ったとしても処理されたものが入っているからでしょうか。とにかく、湖だけが水回りの例外にされていることがわかります。

🎈ペニーワイズの目的は「食べること」

再びペニーワイズに話を戻します。
ペニーワイズの目的は怖がらせて、「食べること」です。子どもを目一杯恐怖させ、恐怖の感情とともに肉体を食らうのです。精神ホラーと物理ホラーの融合体です。

ペニーワイズの本質が「食べること」であるためか、ペニーワイズ以外が食事をするシーンはあまりありません。ルーザーズがペニーワイズのことを忘れていたChapter2の中華料理屋くらいでしょうか。その他は、アイスを食べたりするくらいです。

このことは、ペニーワイズのビジュアルデザインにも反映されていると思います。1990年版のペニーワイズと違い、ITChapter1.2のペニーワイズは白、赤、オレンジの3色から成るスッキリ配色デザインとなりました。これは、洋服の白に、シンボルでもある赤色の風船と、捕食したときの血の色が映えるようにするためだと考えられます。ついでに、ホラー映画であるため暗いシーンも多いですが、そういうシーンで白い服だと視認しやすい、なおかつ不気味です。

🎈ペニーワイズは食べるために「恐怖させる」

ペニーワイズは捕食対象を最大限恐怖させるために、相手の最も怖いものに変化します。だから、名前が無い＝ITと呼ぶ他無いのです。そのために、子どもたち、特にルーザーズの怖いものを徹底的にリサーチしているんじゃないでしょうか（無難に心を読むのかもしれないけど）。なので、臆病で弱みを見せる子ほど得意で、逆に弱みを見せない子は苦手なのではと思います。

また、Chapter1のジョージーや、Chapter2の頬にあざのある女の子ビクトリアがそうであったように、大体の場合、素早い動きですんなり捕食に成功してみせます。その割にルーザーズには時間をかけてじっくり怖がらせたり、ヘンリーには助け舟を出してみたりする、その予測不可能さも恐怖ポイントです。

子供や弱者の前には直接、大人のまえには間接的に（たとえば、ベヴのパパ、エディのママ、ヘンリーのパパが見ていたテレビ番組に）表れ、デリー全体を支配しています。

恐怖させるということは支配するということなのです。恐くて立ち向かえない、と信じさせることで、反抗を封じ込めることもできます。

🎈ペニーワイズは子どもの姿

ぺニーワイズは大きいお子様ピエロみたいな恰好をしてます。背は高いのですが、膨れた頬や広い額は幼児を意識しているようです。フリフリの服、よだれなどもそうでしょうか。白い服を赤い血で汚しまくるのも赤ん坊っぽいです。これは、捕食対象である子どもに近づくための、油断させるためのビジュアルでしょう。ピエロってみんな好きでしょ？同年代のピエロだよ？という、ペニーワイズなりの配慮だと思います。

また、Chapter2では、ルーザーズの前に子どもの姿/子どものころ見たものと同じ姿で表れることでトラウマを喚起する役割もあると思います。加えて、大人にとって幼児って何をするかわからない存在ですよね。そうした予測不可能な恐怖も、ビジュアルに現れています。

🎈ペニーワイズは孤独を狙う

ペニーワイズは子どもが1人でいるところを狙います。ジョージーもそうでしたし、ビクトリアもそうでした。集団でいる場合は、Chapter1でネイボルトハウスに初めてビル、リッチー、エディが立ち入ったときのように、わざわざ離れ離れにさせます。また、その後ルーザーズが喧嘩別れするように、精神的な離散も狙っています。

ということは、結託に弱いのでしょう。やっぱり、1人でいるときのほうが怖いものが怖いですし、結託しているとき「誰かを守りたい」と思う気持ちが勇気に繋がります。そうなることをペニーワイズは避けたいのです。

🎈ポイントは「信じること」

ペニーワイズは様々な姿に変身し、子どもがそれを「怖い」と思い脅威を信じることで恐怖させることが成立します。逆を言うと、脅威を信じてくれないと存在意義も無いわけです。子どものほうが積極的に「怖い」と思わないとダメなんです。イマジナリーフレンドなんかと一緒です。

Chapter2ではルーザーズと散々戦って負傷者まで出したペニーワイズが、あっさり罵詈雑言で弱ってしまいますが、あれは「ペニーワイズを怖くないと信じること（＝恐怖の克服）」が撃破の鍵だったからなんだと思います。ルーザーズはお互いの絆を「信じ」、幼いころからペニーワイズによって植え付けられたトラウマや恐怖を、克服していった、Chapter2ってそういうお話だと思います。

ついでに言うと、ペニーワイズはスクリーンの向こうの観客のことなんか一切考えていないし、観客の恐怖なんか知ったこっちゃありません。ペニーワイズの捕食対象はデリーの子どもたちでありルーザーズなのです。それに我々は、ペニーワイズが何であるかの解説も散々読んで正体をだいたい知っています。観客は、ペニーワイズを怖いと思わなくてもいいのです（それでもコワイ感じはしますが）。

🎈デスライトとは

デスライトは、Chapter1でベヴが、Chapter2でリッチーが餌食になる３つの光です。デスライトはペニーワイズのエネルギーの源であって、それがなんなのかについては色々な方面から考察できると思いますが、特典映像のタイトルにもなっていたことから、私はデスライトとは「恐怖の感情そのもの」だと考えます。ペニーワイズの本質でありエネルギー源だからです。

映写機みたいなもので、デスライトが供給する光（恐怖）を、ペニーワイズが子どもの恐怖の内容によってフィルムを作ることで、オーダーメイドのホラー映画が完成する、みたいなことじゃないでしょうか。デスライトの光に、恐怖を信じるという子どもからの作用が加わって、恐怖が成立するのです。

デスライトを使えば一発で子どもを仕留められるのになぜそれをしないのかと言うと、恐らく無感情になってしまうからじゃないでしょうか。ペニーワイズは恐怖しているところを食べたいので、デスライトの直接照射は、緊急的な手段、もしくは怖がらない子どもへの最終手段になるのだと思います。

🎈デリーの中心ー周縁、上―下関係、

さて、この映画では中心-周縁（周辺）の関係、また上-下の関係がところどころで描かれていると思っています。そのことが、ITにホラー映画以上の深みを持たせているのです。

まず、中心-周縁とはなんぞやというところからです。
中心・周縁理論とは、文化人類学者の山口昌男という人による、社会構造の分析概念です。ある社会組織の内部において、ある二項対立があるときに、AでもBでもない存在、それが周縁です。たとえば、男と女という二項対立があるときに、どちらにも分類し難い、LGBTという存在がありますよね。それが分類できない「周縁」となります。また、現在ではもうそういう考え方は覆ってきているし古いと思いますが、黒人の方や移民の方は、アメリカ社会の「中心」であった白人に対して、長い間「周縁」に置かれていました。
説明不足な点もあるかと思いますので、理論の詳細については以下のページをご参照ください。

肺の穴からごきげんよう 中心・周縁という構造

月刊基礎知識 from 現代用語の基礎知識

また、近い理論として、周辺人という考え方があります。マージナルマンというものです。ある2つの社会集団のどちらにも属さず、かつ両方の性質をもっている「中間的な」人、あるいは集団のことで、たとえば、「青年は子どもにも大人にも属さない中間的な存在で、子どもっぽくもあり、大人になりつつもある」ということです。

この中心・周縁理論、周辺人の理論が、ITの登場人物に内包されていると考えます。デリーで起こる物語は周辺人が主体となって運ばれているのです。

舞台であるデリーについて、大前提としてアメリカという社会の中で、決して中心ではない位置にある田舎です。
そして、Chapter1でのベンの説明によるとデリーは入植者によって作られた街ということで、デリーの住人/デリーの外部者という内外の二項対立において中間的な人々によって作られたルーツがあることがわかります。
入植者がデリーの住人という「中心」になっていくことで、もともとの原住民は理論的にも住処的にも「周縁」へ追いやられています。
ITの物語も、デリー外からの転校生であるベンがまずペニーワイズについて調べ、Chapter2では原住民が語り、それをルーザーズの中でもマイクが語る役となることは、周辺人によって物語が運ばれている点でしょう。

既に上げた黒人という点、そしてLGBTという点で、ルーザーズの中ではマイクとリッチーは周辺人に当てはまります（詳しくは分岐記事を参照）。
スタンのユダヤ人である点も宗教的な観点からそうかもしれません。
ベヴについては、男性中心社会での周辺人としての女性が感じられます。
それ以上に、主人公たちが13歳であるという点は、子ども/大人の二項対立のまさに過渡期にある、年齢的に周辺人状態です。
そして、ペニーワイズも宇宙、つまり外部から来た周辺的な存在なのです。

加えて、デリーでは上下の関係も強く意識されます。
ルーザーズが「弱者、敗者」であり、勝者に対する形で組織されていることは、デリーの学校でスクール・カーストの上下関係が強く意識されていることの現れでしょう。子どもたちだけでなく、デリーの大人も子どもたちに対して支配的で、上下関係が強調されています。

物語の舞台も上下の関係があります。物語は最初、地上で起こりますが、ペニーワイズが下水道に住んでいるため終の決戦は地下で行われるのです。さらに、地上の上にはペニーワイズの浮かぶ風船があります。

🎈この映画では↑が逆転するのが面白い

そしてこの映画では、中心-周縁または周辺、上下の関係が頻繁に逆転します。先に言ったように、「周縁」の存在であった入植者がデリーの住人という「中心」になっていくことで、もともと「中心」であった原住民は理論的にも住処的にも「周縁」へ追いやられているようにです。

デリーの中では「周縁」の、マイノリティを持つ子どもたちが、物語において「中心」であることもそうです。弱者である彼らが、格上のヘンリーに石を投げて倒したり、井戸に落とすなどの逆転もあります。子どものころ弱者であった彼らが、大人になって極端なほどに成功し勝者となっている点も、弱者と強者が登場人物の人生の上で逆転していると言えるでしょう（逆に格上だったヘンリーはかわいそうな人生を送っています）。物語の終盤では、支配者を自負するペニーワイズを、ルーザーズが撃破します。

また、地下がホームグラウンドのペニーワイズが、風船によって地上よりも高い空中に上がり、逆に地上に住むルーザーズが地下に冒険するという舞台的な転換も見受けられます。それは、異界である地下・下水道人間たちの空間である地上に進出する転換でもあるのです。
他に、Chapter2においてルーザーズも、ニューヨークやシカゴからデリーに集まっていて、アメリカの中心地から田舎町のデリーに戻ってくる構図となっています。

以上が、ペニーワイズ、そしてデリーに関するわたしの考察です。

とっても長くなりましたね、読んでくれた方はありがとうございます。

🎈分岐ページ