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アライグマシンポジウム備忘録、その1

2020.10.03に行われました特定非営利法人ワイルドライフリサーチ主催のアライグマシンポジウム「新潟県のアライグマー現状と対策を知るー」に参加しました。

アライグマってどんな生き物?
特定外来種にしていされているアライグマ。かつてペットブームを巻き起こした彼らが「日本にいてはならない生き物」に指定されたのはなぜでしょうか。
「危険な動物」と言われるのはなぜ?
このシンポジウムではアライグマの生態と在来生態系への影響について理解し、今後のアライグマ管理に向けて何をしなければならないかについて、皆さんと考えていきたいと思います。

講演内容
「アライグマの基礎生態と新潟県における分布について(Wiron 望月翔太)」
「アライグマの被害対策と個体数管理について(Wiron 山本麻希)」
「上越市における希少な両生・爬虫類(上越科学館 佐藤直樹)」

パネルディスカッション「今後のアライグマ管理に向けて(聴講者も参加して質疑応答)」




各講師の講演内容に多少私個人の感想なども交えてまとめてみたいと思います。
加筆修正するかもしれません。



望月翔太先生(福島大学准教授)の講演
「アライグマの基礎生態と新潟県における分布について」


アライグマ総論

アライグマとはどんな動物か。
よく似ていると言われる4獣。(農林水産省 野生鳥獣被害防止マニュアルより)

アライグマ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ。顔、尻尾の判別。顔つき、尻尾、足跡で判別できます。

アライグマの特長について。
食肉類に分類される。
体長60~100cm(尻尾含む)体重4~10kgほど。まれに10kgオーバーの個体も存在。
原産はカナダ南部からアメリカ、メキシコ。河川や湖岸湿地などの水気の多い地域を好むが都市部にも生息可能。基本的には夜行性だが日中も行動する。
原産地ではアライグマの事を「ゴミパンダ」と呼ぶらしい。住宅地のダストボックスなどを漁るからでしょう。

「アライ」の由来…器用で発達した前肢を使って物を持つことができ、水辺にいる魚やザリガニを補食する。
アライグマはアカハライモリ等の毒を持つ生物を捕まえた際に臭いで毒があるか判断しその後獲物をこすり続けて毒を落としてから食べていることが確認された(京都大学)。
獲物を食べられる状態まで処理する事ができる。器用で賢い。


分布状況
原産国→カナダ南部、アメリカ、メキシコ
外来種として定着→日本、ドイツ、フランスヨーロッパ諸国、ベラルーシ、アゼルバイジャン、西インド諸島


日本国内におけるアライグマの移入時期は…
1962年愛知県モンキーセンターより12頭が集団逃亡
1977年アニメ「あらいぐまラス○○」人気が勃発。そこで大量輸入、販売されたが飼育に不向きであったため野外放逐が相次いだ。アライグマ以上に強い中大型肉食獣が日本国内にそう多くはないこと、繁殖力が強いこと等から結果現在全都道府県で記録されることになった。


アライグマの食性
雑食。季節に応じて様々なものを食べる。

(兵庫県森林動物研究センター 兵庫ワイルドライフモノグラフよりhttp://www.wmi-hyogo.jp/publication/monograph.html)



アライグマ増加率
産仔率=妊娠率×胎児数(2~6頭)
1才で2.6、2才以上で3:1
個体群増加率は自然死亡がないと仮定すると1.8
→すなわちどんどん増えていく動物である。


年間捕獲率

参考資料(兵庫県森林動物研究センター 兵庫ワイルドライフモノグラフより。http://www.wmi-hyogo.jp/publication/monograph.html)

5%10%捕獲では増加率に敵わず、数年で増加してしまう。
25%捕獲、やや増加していく。
33%捕獲、徐々に減っていく。
50%捕獲、ようやくしっかり減る。

捕獲が少なければ数年で増えてしまうため高い捕獲率を維持することが肝要である。
アライグマは半年で大人と同じ体格に成長する。(ラス○○のような可愛いだけなのは幼獣の半年間だけ。実際アニメでも最終的には手に負えなくなり野外放逐してしまっている)


日本におけるアライグマ分布
(画像は侵入生物データベースより。いつの時点の分布図かは記載なしhttps://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10150.html)


2005年→2017年分布域はおよそ3倍に増加。
北海道、関東、中部、近畿の都市周辺に広く分布の記録あり。
その他地域もまばらに分布している。
隣接する地域については分布拡大する可能性が高い。
数年で数を増やし分布を拡大する動物である。



新潟県の状況は…

1996年狩猟による捕獲が6頭あった、との記録あり。その後も1998.2002.2010.2014年に狩猟による捕獲記録あり。

2015年センサーカメラで1個体撮影
それ以降センサーカメラでの撮影回数が増えている。上越地域を中心にアライグマが定着、分布を拡大させているのではないかという事で本格的に調査が開始される。

上越市、糸魚川市→捕獲、センサーカメラ、ロードキル
三条市→ロードキル?
その他地域も目撃やロードキル情報あり
全域でどれくらい分布しているかは不明(調査中)


分布域調査は自社仏閣の痕跡調査にて行った。

糸魚川市
→市街地周辺多い。ほぼ全域にそれぞれの水系に沿って生息している。
寺社仏閣での生息痕跡確認率は79%。

モデル解析の結果、アライグマの確認地点と河川との間に有意な関係性はなかった。…糸魚川市全域に定着している。

上越市
→市街地中心に分布。寺社仏閣での生息痕跡確認率は51%であるがまんべんなく生息している。

モデル解析の結果、アライグマの確認地点と河川との間に有意な関係性はなかった。かなり広く定着していると考えられる。
一部アライグマ痕跡がなかったエリアがある
理由は不明だが河川河道の整備状況など局所的な環境を調べていく必要がありそうである。



アライグマの起こす社会問題にはどんなものがあるか

農作物被害
平成17年から徐々に増加、平成30年度は3億7500万円(ニホンザルが8~10億円)
(ただし農作物被害は申告されたもののみを計上するため実情はもっと多いと思われる)


生活被害、健康被害
天井裏等の糞尿汚染、足音や鳴き声等の騒音被害、ペットや人体への感染症(狂犬病ウイルス、アライグマ回虫、レプトスピラ(北海道)、イヌジステンパー、日本脳炎(兵庫)、ダニ媒介脳炎(北海道、島根)等)

感染症→コロナウイルス感染症の影響もあり、環境省が本腰を入れはじめ野生動物管理のこれからの主要テーマになりつつある。これまでは野生動物管理といえば農林業に対する対策が大きかったが、感染症にも注目が集まる。まずは鹿を中心に調査を進めることが決まっている。


文化財被害
重要文化財への被害も大きい。
2010年一休さんの肖像画に穴が開く。
盗んだ柿を食べていたもよう。住職さん「アライグマに罪はない。柿を静かな場所で食べようとしただけだから…」(優しい…)

(朝日新聞http://www.asahi.com/special/080804/OSK201011030054.html)


自然生態系への被害
ニホンイシガメの食害(固有種、準絶滅危惧種)他



総括

繁殖力の高さから新潟県でもアライグマの個体数分布域は増加していくと予想される。

簡易的なアライグマ調査である寺社仏閣の調査により新潟県全域の分布を把握することが重要。

上越市において2015年にセンサーカメラで撮影されてから5年が経過し糸魚川市と上越市ではほぼ全でアライグマの痕跡が確認されている。(定着している)

分布の最前線は他エリアにある。アライグマが今どこに分布しているか把握していくことが必要である。

分布の最前線でアライグマの侵入、定着を防ぐことでアライグマが起こす社会問題解決に繋がるだろう。

定着エリアでは捕獲率を上げ根絶を目指したいところ。


次回は「アライグマの被害対策と個体数管理について(Wiron 山本麻希)」について。2へ続く。

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