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『転生! 太宰治』感想

佐藤友哉著『転生! 太宰治』を「転生して、すみません」からFINALの「コロナで、グッド・バイ」まで読みました。

入水したはずの太宰治が現代に転生し、行きずりの女と心中しかけたり地下アイドルに芥川賞を取らせようとしたりする話。

知らない人のAmazonレビューにもこう書いてあったのですけど、「何もかもがよかった」。

転生した太宰の一人称小説という設定になっているので、終始太宰の文体を意識したちょっとまわりくどいような文章になっているのが特徴。その一方で太宰が『文豪ストレイドッグス』を不思議そうに見たり、ラップバトルに参戦したりする姿がめちゃくちゃライトノベルっぽくてコミカルで、作品全体に軽妙さを演出していました。

ちょっとうまくいかなかったり不安になるとすぐ女と心中しちゃうというのも、まったく冗談ではないのですが、しょうがないな……と思わされてしまう何かがあって、その人物造形もすばらしかったです。あと芥川賞への執着心が一向に成仏しなくて、その刷り込みもいい加減にしたほうがよいと思うのに、なんだか同情させられてしまうんですよね。

もう死後数十年後に作品がこれだけ残っていることがわかったら芥川賞どうこうなんて些末な問題じゃないですか、と思うのですが、確かにその事実には本人も喜んでいたものの、それでもなお生前の怨念に囚われているところが失われない彼の面白さでもあるんだろうなと思いました。満たされなさ。

永遠に幸福を組み上げる桶の底に穴が空いたままというか。

これだけ愛されていても足るを知ることができない、でもそれが人間ってものなのかもしれないと感じました。

乃々夏との妙な師弟関係がなんだかんだ私は嫌いではなかったです。いろいろな女のところに転がり込んだり、お金をもらったりしてましたけど、だらしないわりに妙にプライドがあって弟子に手を出さないところは生々しかった。

愛されたいと感じているのに、それが望んだ愛じゃないと思うと満たされないのは太宰も現代人も同じなのかもしれないな……とたびたび思わされる作品でした。


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