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『皇女アナスタシア ~もう一つの物語~』感想

一原みう著『皇女アナスタシア ~もう一つの物語~』読みました。
アナスタシア伝説を下敷きにした少女小説です。
こちらは確か、辻村先生のSpaceでおすすめされた本だったかと思います。ロシアといえば一原先生、ということで。

皇族一家の最後の日々をアナスタシアの視点から描くことで、ほとんど宮殿に閉じ込められた毎日も鮮やかに感じられました。アナスタシアたちには過酷な運命が待ち受けているわけですが、そのドラマも少女向けのライトノベルらしく、歴史小説のように固くなり過ぎず抒情的に描かれていると感じます。

戦争の状況は悪いし、王朝を支える貴族たちの心も離れていって、皇帝は正しい判断ができない、皇后は精神的にどんどん不安定になっていくという最悪の状況下で、それでもなお素直で明るく元気なアナスタシアは魅力的でした。ものすごく純粋で家族思いなところも泣けます。

皇族の十代半ばの女性にしては、ちょっともの知らず過ぎるのではないかと心配になるところもありましたが、皇后が表面上の教育しか与えておらず、精神的に成熟していないといった人物像なのかもしれないと思いました。ほしくもなかった四女なんてほったらかし、みたいな。

皇族一家も、さすがに状況が何もわからないほど鈍感ではいられず、アレクセイ以外もみんな病気になっていくし、ラスプーチンは死んじゃうし、廃位させられたあとはどんどん罪人として追い立てられていくしで何一ついいことは起こらず、エピソードとしては破滅まっしぐらというお話なのですが、そういう物語を背負って立つ女の子だからこそ、ちょっと鈍感で、でも明るくて家族が大好きなアナスタシアは輝いて見えました。

その彼女に献身的に仕える幼馴染で医師の息子グレブ、いいですね。めちゃくちゃロマンです。二人が再会するのかしないのかというラストシーンまでの流れも美しくて、感動的でした。

ペテルブルグでペプィーシュキを食べようとするみたいなエピソードにほっこりしたり、「少しタタール系の顔立ちなの」みたいな何気ない台詞にもロシアの息吹を感じられて、読んでいてめちゃくちゃ楽しかったです。主人公たち以外のところでも、マトリョーナとアレクセイの絆や優しさに胸打たれました。ラスプーチンやアレクサンドラもなんだか人間的で、絶妙に憎めない人たちという描かれ方でした。

伝説と史実とを絶妙に折り合わせつつ、少女小説らしいロマンもたっぷり、ロシアに対する愛の詰まった面白い小説でした。


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