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『ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!?』感想

仲村つばき先生の少女小説。装画の藤ヶ咲先生がスペースで「全員読めよ」とおっしゃっていたので読みました。最初は嫌な奴だと思っていたのに、だんだん相手の人となりがわかってくるにつれ惹かれてしまうというのは様式美なんです。大好き。

何が面白いって、コミカルで可愛い恋愛ものである一方、やっぱり女性作家がたくましく生きる姿、作品に自分を費やしていく生き様みたいなものが、ぴったりと張り付くような緊張感として日常に存在しているところ。
作家は誰でもそうなのかも。それはこれがないと私は私として生きられないみたいな細い糸をたどるような張り詰めた生き方でもあるんだけど、同時に自分自身の心に譲らない城を持っているような強さでもあると思います。主人公のセシリアにそれがなければ家を失って労働者として生き延びなければならなかった時代に、あるいは理解者ヒースが死んだときに彼女は生きていけなかったかも。
若くして家族をそう何度も失うってどれだけつらいことだろうと思うのですが、セシリアは世の中に絶望なんてしていないし、こんな生きにくいはずの世の中で超たくましくばりばり小説書いててまさに天晴って感じです。

軍人のクラウスが終盤で戦場に立つので、一進一退の恋愛もの読んでいたと思ったら急に人生の急展開! って感じで、でも軍人の妻というのはこういうものなのかもしれない……と、ほろりとなりました。セシリアがまだ愛を知らないけれど夫を愛していきたいのだとクラウスの枕元で語る場面が素敵で、なにかとてもおごそかで尊いものに感じられました。



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