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『異世界コンビニ』感想

 全3巻。読みました。

 フリーターの女の子がコンビニの異世界支店で勤務することになる楽しいラブコメかと思いきや、異なる世界で生きる者同士の恋愛の難しさとか、異世界人を利用しようとする側の思惑とかいろいろなことが絡み合っていてコメディかと思いきやシリアスだったり、シリアスかと思いきやコメディだったりして、読み味が非常に面白い作品でした。

 何気ないような描写を丁寧に積み重ねて後半の展開の伏線としている箇所も多く、急展開はあれど単なる青天の霹靂にはなっていなくて、予感させる描写が仕込まれている部分など、物語の仕掛けが巧妙なところも好きです。

 主人公が毒舌を持ち味にしているのでちょっと口が悪いところもあるのですが、本当はすごく純粋で恋に不器用で可愛いです。なんだかんだいって、好きな人のために頑張る女の子は最強だと思います。

 それでもやっぱり、異世界間恋愛における別の世界にいるそれぞれの家族の問題は難しいですね。
 ちょうど同時期に、アメリカ人の男性と香港人の女性との間に生まれた少年の短編を読んでいたので尚更考えさせられました。今は別の国の人間同士で結婚しても二度と会えないなんてことはそうないかもしれませんが、どちらかの世界を選ばなければ結ばれないとしたら心細いだろうなと思います。

 とくに異世界プルナスシアに行ってしまうと、こちらの世界の人間は記憶を失ってしまうという特殊な事情もあって、それってほとんど自分自身がどういう経験をもとに何をどう感じるかというルーツまで失うってことなんだろうなと思って、すごく恐ろしいような気がしました。

 それでも異世界の人と出会って、恋をして、一緒に人生を生きていきたいと思うようになっていく主人公の成長がとても感動的でした。異世界同士の交流の難しさや大きな悲劇があっても、それでも育んできた絆の尊さや大切な人と生きていける幸せを強く感じさせてくれる作品でした。

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