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『水属性の魔法使い』感想

 刊行中の第2巻まで読みました。

 本文に「転生ものではこういうのがお約束」というネタがいろいろと出てくるのですが、個人的には異世界転生ものの小説というのは主人公が言うほどお約束なものではないように感じていたので、私には主人公の述懐についていけないところがしばしばありました。

 たとえば、主人公が稲を初めて発見したときの記述について。

 転生ものでは相当生活に慣れた後に、苦労して探して探して世界の半分ほどを歩いて、ようやく巡り合うことができるものだ。
 そう、それが定番。

 その通りの小説ももちろんあると思いますが、たとえば農民の子どもに転生した作品など、ごく普通に序盤から米が登場する作品を読んだことがありましたし、稲があるかないかなど物語の最後まで話題にならない作品もたくさん読んだことがあったので「定番」と言われて首をひねってしまいました。そうなんですか?
 でもこれは私の読書歴の問題で、私が主人公の涼ほど「転生もの」の小説をたくさん読んでいないために実感できないのかもしれません。おすすめの転生もの教えてほしい。

 涼が出会ってからずっと親切な態度のアベルを「人としてどうかと思う」とか「性格の悪さはどうしようもない」といった妙ないじり方をするのは、私にはちょっと不思議に感じられました。
 もっとアベルが涼を置いてきぼりにするような粗野な性格だったり、もっと尊大な態度だったりすればわかりやすかったと思うのですが、アベルがいい人すぎるので「この台詞はどういう意味なんだろう? 性格悪いところ何かありましたっけ……?」ってなっちゃった感じです。
 でも、これは単に、男性同士だといかに失礼なことを言い合えるかみたいな部分が仲の良さのバロメーターである、ということなのかもしれないですね。冗談を言ってじゃれあえる仲になったという表現なのかな。

 以上のような意味では、異世界転生ものの小説を読みなれた男性読者の方のほうが、比較的するっと読みやすい作品かもしれません。

 なんだかんだ言ってアベルがダンジョンのなかでピンチになったときに颯爽と助けに来てくれる涼はカッコよかったです。

 わりと構想自体が大きな話のようなので2巻まで読んでもまだ序盤という印象でしたが、この世界のたくさんの人々を巻き込んだ大きな物語が動き出しそうな期待感がある作品でした。ライトに楽しめて、かつ本格的なローファンタジーに取り組もうとする姿勢がしっかりと見える物語でした。

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