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『天平の甍』感想

読みました。選書理由を思い出せないのですが、おそらくラジオか何かによるおすすめだったと思います。
遣唐使として大陸に渡った修行僧たちが、艱難辛苦の果てに日本へ鑑真を連れ帰るという歴史小説です。

唐で仏教を学ぶとか、仏典や経典を持ち帰るとか、高名な僧侶を連れ帰る仕事なんて、不勉強で仏教にも歴史にもさして明るくない私にはイメージのつきにくい事業ですが、この小説ではその一連の物語をまるで見てきたかのように見事に描き出していて、ひとつの冒険小説のようでもあり、非常に釣り込まれてしまいました。

世界地図では中国と日本なんてすぐお隣のように見えますが、日本海を渡るって聞きしに勝る大変さ……。風の問題もあるのでしょうか。日本から中国へ渡るより、逆の航路のほうがさらに難しいように読み取れました。遭難してまったく違う南国に流れ着いたときはどこへ行っちゃうのかと。

仏の教えを持ち帰るための旅と言えば、世界一有名なのが『西遊記』。
玄奘三蔵の頑健さと勤勉さ、意思の強さたるや話に聞くだけで小説より奇なりといってふさわしいと思いますが、本書の冒険も大変なもので、海を渡ることの困難さと、それに打ち勝つ人間の意思の強さに震える心地がしました。

鑑真の渡日にあたっての苦労は、高校生のときに授業で聞きかじった程度の知識で、その過程で失明したことも情報としては知っていましたが、当時60歳を超えての旅はさぞ過酷であったろうと思わずにいられませんでした。いや、過酷という言葉では言い表せないほどの……生死を懸けるほどの仕事ですね。

何度も失敗し、6回という度重なる挑戦を経て、在唐20年のときを超えて僧侶普照はついに鑑真を連れ帰ります。知識としてもちろん鑑真の来日は知っているわけですが、それが叶ったときはなんとも感動的でした。その間、何度も死にかけ、榮叡の死をも超えてついに成就した帰郷。

そうまでしても、その身を擲っても、仏の教えを伝えなければならない使命を帯びて生きる人。彼らが伝え築いてきた日本の仏教というものが、歴史のなかに文化のなかに、生活のなかに息づいてゆく。教えは伝播して定着し、目に見えないもののなかに染み入っていく。そんな息遣いを感じました。


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