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『ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女』感想

 廃墟シリーズという、とある王国の時代・主人公違いのストーリーが描かれる小説シリーズの作品です。全4巻のなかの1冊目。
 3人兄弟が共同統治する王国イルバスで、尊大な兄と狡猾な弟に挟まれた中間子の女王ベアトリスが奮闘するお話。

 兄と弟の思惑や派閥に挟まれて、なんとか共同統治のバランスを取ろうとするベアトリスの立場は非常に難しく、兄弟間での駆け引きが次々に展開されてハラハラしたり、彼女が目指したい未来に光はないように思えて読んでいる間中やきもきさせられました。その緊張感がとても面白かったです。

 実際読んでみると末子のサミュエルは狡猾というより繊細な弟という印象でした。
 兄のアルバートは権力があるうえに性格は尊大という扱いにくい人物に見えても、軍人たちからはモテモテで、やっぱり決断力があって強い王ってそれだけで人気が高いものなのかもしれないと感じます。
 しかし、兄も弟も機嫌が悪くなるとモノにあたるタイプみたいで、大人なんだから自分の感情くらい制御できなくてどうするんだって思いました。赤ちゃんか。しかも自分で勝手に散らかしたんだからせめて自分で片付ければいいのに、侍従にやらせているあたりがいかにも王族って感じなんだよな……と。笑
 妙にベアトリスを軽んじたり侮ったり恫喝するような言動といい、兄も弟も男性らしさというか、立場が強い男性の嫌な感じが絶妙に出ていて非常に面白い人物造形だと感じました。
 もちろんアルバートの賢明で果断なところだったり愛情深さだったり、サミュエルの繊細だからこそ弱い者のことを考えることができて、かつ王族の責任を受け止めていこうとする強さなど美点もあるんですけど、欠点の描き方を含めて「こういう人いるよね!」って感じられるのが面白かったです。
 ファンタジー作品を読んでいると、もっとこう漫画的というか、性格がデフォルメされていると感じられることもあるのですが、本作を読んでいて私は彼らは「人物」であると生々しく感じられたのがすごく好きでした。

 主人公のベアトリスは本当にカッコよくて優しくてしっかり者なんですけど、ギャレットの前だと本当に可愛くてにこにこしました。あとサミュエルの王杖ルークがめちゃくちゃ気持ち悪くてよかったです。サミュエルが狡猾だと評価されていたのも、主に彼の実績だったのかもしれません。

 しかし、あまりにも兄弟での共同統治が難しそうだったので、私も「いや王権はやはり一人に集中させたほうがいいんじゃないか? この兄弟の代はなんとかなったとしても、3人の子どもたちがもしまた3兄弟だったら9人で共同統治するんだろうか? それは無理じゃないかな……」って考えさせられました。
 もしくは、何十年かかけてゆるやかに立憲君主制とか、議会制とかに移行していくのでしょうか。そういうことはアルバートが認めなさそうな国ですけど……どうなるんだろう。でも、未来は明るいんじゃないかという示唆が与えられてこの本は終わっているので、そう信じたいなと、心から思いました。

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