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『ルックバック』感想

 ルックバック。背中をみて。
 作品のサムネイルもまた、漫画を描く背中なんですね。

 藤野は画力に劣等感を抱えていたようですが、二人が並んでいる学級新聞の4コマ漫画、漫画として面白いのはいつも藤野の方だったと思います。
 また最初に登場する藤野の漫画が「生まれ変わってもまた私にキスをして」と約束する漫画なのがなんとも言えず切なさを掻き立てます。

 藤野と京本で「藤本」。そして、才能と創作意欲と作品愛に溢れた彼女の名前がなぜ「京本」なのかは作中起こる事件によって示唆されています。
 京本を失った藤野が抱えるのはただただ大きな喪失感と無力感。

 それでも背中を押すのは「京本も私の背中みて成長するんだな」とかつて言った言葉。

 作中繰り返し描かれる、ただ漫画を描くだけの背中。成長とともに、四季の移ろいとともに。背中をみて。ルックバック。

 「京本も私の背中をみて成長するんだな」、京本も、と藤野が言ったのはきっと京本をみて自分も成長してきたことをわかっているからでしょう。
 京本をずっとみてきた。

 積み重ねられたスケッチブック。積み重ねてきた時間。
 これからもずっとみていたかった。どんな世界を描く作家になるのか、何度でも夢をみせてほしかった。それなのに京本はもういない。
 
 京本はいつも、藤野の背中をみてくれていました。京本の机の前に貼られた藤野の四コマ漫画。ドアにかけられたサイン入りの半纏。
 彼女はもういない。そんなことはわかっている。痛いくらいにわかっている。
 それでも彼女は、今でも藤野の背中をみてくれているかもしれない。そんな息づかいさえ、聞こえてくるような気がします。

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