『ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』感想

 香月先生が推薦文を書いていらした本。
 私は所謂「後宮もの」があまりぴんとこないのでどうかなと思いきや、とても面白かったです。

 特に興味深かったのは登場人物たちによる人物評で、人は他者にさまざまな期待を持っているのだと感じました。やっぱり人間って、自分の持っているものさしでものごとを捉えるしかなく、何に価値を見出すかは人それぞれなんですけど、それがないと見るや人は他者に対して興味を無くすし、いくらでも冷淡になれるものなのだなと。玲琳のことを愛する登場人物が多いのですが、彼女に入れ込む度合いが高い人ほどそれ以外には点が辛かったり、興味が薄かったりする姿勢がかなり露骨で、なんだか我が身を振り返る思いがしました。他者に敬意を持つって本当に大切なことですね。己の敵に対してさえ、そうなのかもしれません。

 個人的に一番好きだった登場人物は絹秀です。 雅媚に対する愛情が素敵だなと思いました。
 雅媚も好きです。自分のやりたいことがある人は魅力的に感じます。

 逆に玲琳は何がしたいのかなかなか掴めなかったんですが、「友達がほしい」というのが現時点での彼女の一番の願いだったようでした。
 慧月との友情が育まれてよかったなぁと思う反面、彼女に関してはそれをわざわざ流れ星に願うより、自分からすすんで誰かを愛せばいいのではないのかなとも思いました。
 家族や女官たちが大切に閉じ込めすぎるせいで友達の作り方がわからないということなのかもしれませんが、私は彼女は自分自身の命を燃え立たせることに必死で、他人には関心が薄いのかなという印象でした。
 身近な人たちの本質が見えていなかったと彼女自身も述懐していましたが、やはり他人に興味が引かれないのだろうと思うのですよね。すごく大切で、もっと心のうちを知りたいと切実に思える相手がまだいないのだろうと。彼女の心の成長も楽しみです。

 「悪女」の意味が終盤すり替わるのはとくに面白く、お見事という感じでした。

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