『漫画家先生とメシスタント』感想

仲村つばき先生の作家ものが続いたから、前から気になっていたこちらも読もうかなってことで読みました。面白かった。一冊で終わっちゃっているようのがもったいないくらい。

やっぱり仲村先生の小説って何気ない描写がしっかりしているというか、その時々の情景とか持ち物とか、そのとき登場人物が何をしてどうふるまったかみたいなところがぎゅっと詰まって短い描写のなかでもするすると伝わってくるように感じます。ファンタジーを読んでも、こういう現代ものを読んでも。
細かい描写におそらく取材したり調べたりしたと思われるリアリティをさりげなく乗せていて、だからきっと描写が上滑りしないんですよね。それはともかく、大泉学園は友達が住んでいて昔よく遊びに行った街だから、なんだか懐かしくなりました。

内容的にはなんだか身につまされる話が多かったです。他人事のように感想を述べるのが少々難しいのですが、人にご飯を作ってもらえるのはすごく羨ましいです。漫画家と一口に言ってもいろいろなやり方があって、現在はより自由になった気がしています。本文にあった「仕事で感情的になったら終わりだ」という桂太の言葉は私も肝に銘じたいです。常に冷静に。
でも桂太は、サラリーマンなら就業規則を破って副業するのはあまりよくないんじゃないかなと思いました。徹夜したりとか、めちゃくちゃな生活をしているみたいだし。いつか倒れたら出版社にも会社にも迷惑をかけますから。いかんぞ。私としては会社に根回しすることをおすすめしたいです。

ときわは本当にいい子で、なんというか本当に常にまっとうなことをしていて、少女漫画に深く感動できる純粋な感性の持ち主で、彼女を見ていると私は心が澄んでいくような気がしました。高校生で、周りが少女漫画をばかにするようになった時期にそれでも好きで居続けるって大変だろうなと思うから……。

父親とか結とか理解者がちゃんとそばにいたのがよかった部分もあるかもしれないですが、彼女の作品愛を見ていると誰がなんと言おうと感動した作品には敬意を払い続けるだろうなと感じました。本人は無自覚ですけど作品に対してこれだけ滔々と感想を述べられるのもすばらしい美点だと思います。


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