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『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』感想

 ズュータン著のノンフィクション。
 現代のホラーというか、怖すぎて最低な気分にはなったんですけど、こういう話が実際自分の身にふりかかる前に本で読んでおくというのは人生の助けになるかもしれないと思いました。『HUNTER×HUNTER』のハンター試験会場に向かう道中で出会うおばあさんも「あらゆる残酷な想像に耐えておけ」って言っていましたからね。

 こういう真綿で首を絞めるようなやり取りというか、閉鎖された場所で友達や信頼している人に熱心に勧められたらなかなか強くノーとは言えない気持ち、じつは私にもよくわかるんですよね。
 私は一方的に家に押しかけてきて当然のように「玄関先でのご対応お願いします」って言われる訪問販売に弱くて、玄関に出ちゃうとなんだかんだで何分も話を聞かされることになったり、何度も食い下がられてもう断るのが面倒になったりすることがあったのです。なので、今はすべて一律で「玄関先での対応はできません」と断るようにしているのですが、より心を許している相手との限定的な空間でああいう風に言われたらと、想像しただけでも怖いです。心構えさえできていれば、固く断ることもできると思うのですが、なんとなく流れでそうなるとなかなか逆らえないものかもしれません。スマートフォンを新しくしたときも販売員がしつこく併せてインターネットプロバイダを変えると安くなるプランを薦めてきて、それを断るのに15分くらいかかった……。

 本書ではマルチ商法にハマってしまった人と、その周囲の人の関係性が破壊されていく過程を緻密に描いているので、心が痛くなりました。
 当人は、一度取り込まれてしまうと、それを進めれば進めるほど自分がやってきたことを正当化しなければやっていられなくなるというのもあって、「X社製品はいいもの」というのをますます信奉することになっていくのかもしれないと感じます。蟻地獄。
 著者の離婚調停中の元妻からのメール、リアルで怖かったです。なんで今、X社製品の話をこんなにする必要があるのかわけがわからなくて。まるで何かにとり憑かれいるみたいな印象を受けました。

 それと家庭崩壊したあとの子供って、やっぱり母親が親権を持つことが多いものなのでしょうか。本書内ではマルチ商法にハマっている母親側が子供を引き取る例が多かったのですが、その点についてはとくに踏み込んだ説明はなかったので少し気になりました。マルチ商法にハマっている親を持つ子供にとっては死活問題のような気がします。

 余談ですが、本書を購入したらマルチ商法関連の本が電子書籍アプリのおすすめ欄に出るようになったのですが、大体どれも表紙が怖い。それはゴキブリの駆除スプレーに怖いパッケージが多いのと同じ理由なのかもしれないですけど、本書が表紙だけでも爽やかでよかったです。

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