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『すらすら読める風姿花伝』感想

林望著『すらすら読める風姿花伝』を読みました。

世阿弥の『風姿花伝』は、読もう読もうと思いつつなんとなくタイミングがないままになっていた本の一冊だったのですが、私も重い腰を上げてようやく長年の知ったかぶりに終止符を打つ気になったというところです。

大好きなゲーム『金色のコルダ3』の東金千秋という登場人物もこの世阿弥の本を愛読しているというのに、未だに読まずにいたなんて、東金部長に呆れられるかもしれません。すみませんでした、部長!!

しかしこの本ではなんと原文を総ルビつきで掲載したうえに、現代語訳がそれに続き、著者の解説まで添えられているという至れり尽くせりな設計で、不勉強な私でも気楽に読み通せそうでした。
学生の方にとっては、古文の勉強にも役立ちそうですね。著者の経歴がもともと学校の先生だったそうで、なるほどと思いました。

読んでいくと、「ああそれ知ってる! 東金部長も言ってた!」ということや、それ以外にも耳にしたことのある教えがいくつも登場して、世紀を越える芸能の名著なのだということをしみじみと感じました。

「上手は下手の手本、下手は上手の手本なり」というところでは、思わずドキっとしてしまいました。我が身を振り返ると、優れた人のちょっとしたミスや欠点を見つけては、己を反省するどころか慢心するところがなかったと正直には言えないような気がして、内心恥ずかしさにのたうちまわりました。
でも確かに、その道を極めたような尊敬される方々って、どなたも非常に謙虚であると思います。あれはまさしく、他者から常に学ぼうと言う姿勢の表れだったのかもしれません。私もそうした方をよく見習って、心構えをもって生きていかなくては……と思いました。あー恥ずかしい。

「秘すれば花、秘せねば花なるべからず」という箇所についても、考えさせられるものがありました。
現在の情報化社会では、プロの仕事がどのようにできたものかという情報が溢れています。正直なところ、知ったところで身に付けていないうちは同じことはできないし、何か簡単なテクニックでもあるのかと思いきや驚くような修練の成果を知るだけのことになるといったことも往々にしてあると思います。
それでもなお、花は秘すべし、というのはありがたい教えかもしれないと思いました。

神秘と驚きとは、親子のようなものだと思われるからです。

この本の後半では、面白さとは驚きであると何度か繰り返し述べられているのですが、どんなに好きなものでもずっと見ていたら人間は慣れるものだと思います。

よく修練して絵や漫画を描いたところで、その新鮮さはやがて色褪せて、前にも見たことがあるような当たり前の作品だと感ぜられるようになるでしょう。その速度は、人がいくら修行して新しい魅力を得ようとしても、追い越せるものではないのかもしれません。しかし、新たな神秘をその身に蓄え、面白さという驚きを提供することはエンターテイメントに関わる人間の真髄でもあります。

だからこそ、秘するものは、とても大切にしなければならないのでしょうね。

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