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The Monkeesを再評価する - Part 6:ファーストアルバム『The Monkees』

1966年9月12日アメリカ東部標準時間19:30、30分のシットコム番組「The Monkees」の初回が遂にNBCで放送された。

当時まだまだ保守的な世であったアメリカの一般家庭で、夕飯後に一家が揃ってリビングのカウチに座ってテレビを付けたら飛び込んできたであろう南カリフォルニアのビーチで上半身裸で歩く(当時としての)ロングヘアーのデイビー・ジョーンズが登場するオープニングにぶっ飛んだであろうことは想像に難しくはない。
その短いオープニングの後、The Monkeesのテーマ曲がかかり、4人がドタバタ劇を繰り広げるBGMとして「This Just Doesn’t Seems to Be My Day」「Take A Giant Step」の2曲が使われた。

当時カウンターカルチャーであったロングヘアーのクレイジーなロックバンドを主人公にしたかなりエキセントリックなドタバタコメディに対するレビューはまちまちだった。一部のNBC系列局はロングヘアーを理由に放送を拒否したという報道もあった。
しかしながら一方で、内容的には人を助ける優しくも伝統的な価値観を持っていることが示されていた。ミッキー・ドレンツが後にイギリスの新聞 TheGuardianに語った通り、「それまでロングヘアーの子供たちをテレビで見たのは彼らが逮捕されたときだけだったが、我々がやったことは楽しく踊り歌い、道の向こうの小さなおばあさんを助けることだった」。正にそういう内容のシットコムがこのテレビショーだった。

大人が複雑な思いをする一方で、モンキーズは若者の間で徐々に全米規模での人気を獲得していく。

10月2日にはモンキーズは初のインタビューをニューヨークタイムズより受けている。
10月24日にはニューズウィークのインタビューを受けている。この時「どうやって曲を作っているのですか?」という質問に対してデイビーは「これはロックグループじゃないよ、演技だよ」と答えている。
この頃、俳優側のデイビーとミッキーはあくまでロックグループを演じている芝居として捉えていて、音楽側のマイクとピーターは実はフェイクであるということにリスクを感じていた。


4週放送し、第5話の放送日となった1966年10月10日、遂にファーストアルバム『The Monkees』が発売された。
テレビ番組で流れている彼らの曲(誰もが4人が演奏していると信じていたしプロダクション側もその体だった)がレコードで聴けるとあって、このデビューアルバムは急速にチャートを上昇していった。

ビルボードのウィークリーチャート初登場は121位。
しかし5日後の10月15日週付けで29位に急上昇。
翌10月22日週付けで18位。
翌10月29日週付けで6位。
翌11月5日週付けで2位。
翌11月12日週付けで遂に1位となった。

この後、モンキーズのセカンドアルバムが1967年2月に1位に取って代わるまでの実に13週間、このファーストアルバムは1位に居続けることになる。最終的にビルボードチャートには78週間居続けるモンスターアルバムとなった。

ちなみにこの10月に1位だったのはThe Beatlesの『Revolver』。
ローリング・ストーンズやビーチ・ボーイズが編集版・ベスト盤を出して正規の新譜が出ていなかった頃で、フレッシュなバンドを求めていた若い女性層に対してタイミング的にも非常に良かった時期と言えるだろう。

そして、テレビ番組とファーストアルバムの人気上昇と共に、7月にリリースしていたシングル「Last Train To Clarksville」も11月5日にようやくビルボート第1位に昇り詰めた。


*          *          *          *          *


ファーストアルバムの収録曲と自分なりの解説を以下に記す。
ここでは作詞作曲者とモンキーズのメンバーの参加に関してのみ記載し、加えて各曲に関するトピックスや歴史的意義について付記する。

ちなみに自分としてはこのアルバムはあまり評価していないので全般的に
辛口なコメントになる。
但し、マイク・ネスミスの「Papa Gene’s Blues」がロック史において非常に重要且つ過小評価されているので、ほぼそのためだけにこの記事を書いている。

各曲のプロデューサーは、マイク自作曲以外はトミー・ボイス&ボビー・ハート、またはトミー・ボイス&ボビー・ハート+ジャック・ケラーである。

後年ライノ・レコードの尽力で全ての曲でほぼセッションミュージシャンの名前が公表されており、英語版ウィキペディアに詳細が記されているので、詳しくはそちらを参照されたし。
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Monkees_(album)#Session_information


A-1 "(Theme from) The Monkees"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ

テレビショーのオープニング曲だが、アルバム用に歌詞とギターソロを追加してエクステンションバージョンにしている。
従ってオープニング曲をベースに違うバージョンに変えているという意味で
Theme fromという但し書きが曲のタイトルに付いている。

この曲のギターソロにも言えるが、このアルバムにはラーガロック(インド風の旋律をフィーチャーしたロック曲)に影響されている曲が目立つのが特徴。1966年はラーガロック全盛で、ボイス&ハートのプロダクションとしては頑張って流行を取り入れようとしていたのかもしれない。


A-2 "Saturday‘s Child"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ

この曲のギターソロもラーガロック風。


A-3 "I Wanna Be Free"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:デイビー・ジョーンズ

元々はドラムが入ったミディアムテンポのバンドサウンドだったが、最終的にこのアコースティックギターとストリングスのバージョンに落ち着いた。
ビートルズのイエスタデイの作りを意識していると思わずにはいられないアレンジだが、とにかくデイビー・ジョーンズの艶のあるボーカルの上手さが際立つ。


A-4 "Tomorrow's Gonna Be Another Day"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&スティーヴ・ヴェネット
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ

基本的にブルースのコード進行で、やっつけ仕事感が拭えない印象。
レコーディング上のアレンジとしてはエコーを多用したり、それなりに頑張って仕上げている。


A-5 "Papa Gene's Blues"
• 作詞作曲:マイク・ネスミス
• ボーカル:マイク・ネスミス
• コーラス:ミッキー・ドレンツ
• ギター:ピーター・トーク、ジェームス・バートン、グレン・キャンベル、アル・ケイシー、ジェームズ・ヘルムス、ドン・ピーク
• ベース:ウィリアム・ピットマン
• ドラム:ハル・ブレイン、フランク・デヴィート
• パーカッション:ギャリー・コールマン、ジム・ゴードン(ヴィブラスラップ)
• プロデューサー:マイク・ネスミス

このファーストアルバムの歴史的意義はこの曲だけにあると言っても過言ではない、非常に重要な曲である。
おそらくは正規に大手レコードレーベルからリリースされた初めてのカントリーロック曲として位置付けられる。
後に70年代にイーグルスで完成するカントリーロックは、その発明者としてよくグラム・パーソンズが挙げられるが、事実グラム・パーソンズがカントリーロック曲を出すのはまだ後である。明らかにマイク・ネスミスのこの曲の方が早い。

1966年はカントリーロック元年と言って良い。
ビートルズはカントリーも演奏したロックバンドだが主にはカバーに終始しているので除外し、ここではアメリカ人が自国の音楽であるカントリーをロックとミックスさせたというのをカントリーロック発明の定義としたい。
そのカントリーロックは1966年に一気にレコーディング現場で発生した。
以下は1966年にレコーディングされ後にリリースされたカントリーロックの曲である。

- The Monkees Papa Gene's Blues The Monkees 1966.07.07
- Buffalo Springfield Go and Say Goodbye Buffalo Springfield 1966.07.18
- Rick Nelson Things You Gave Me Country Fever 1966.08.18
- Gene Clark Keep on Pushin’ Gene Clark With The Gosdin Brothers (aka Echoes) 1966.08.29
- Gene Clark Tried So Hard Gene Clark With The Gosdin Brothers (aka Echoes) 1966.08.30
- The Byrds Time Between Younger Than Yesterday 1966.11.30
- The Byrds The Girl With No Name Younger Than Yesterday 1966.12.08

バッファロー・スプリングフィールドをカントリーロックの始まりと説く人も多いが、マイク・ネスミスとほぼ同時発生であることが上記から分かる。
もう少し言うと、バッファロー・スプリングフィールドのスティーブン・スティルスはピーター・トークと旧友であり、この辺りは結構繋がっているのである。

コード進行も他のカントリーロックの楽曲に比べてかなり凝っている。
マイク・ネスミスはメジャーキーの楽曲の展開にマイナーコードを上手く織り交ぜるのが好きで、Aメジャーの曲なので通常のカントリーベースのコード進行ではAーDーE7となるが、この曲はビートルズの「If I Fell」でお馴染みのAーDmーE7という流れをサビのエンディングから次のヴァースへの展開に使っている。
他にもサビの中にAメジャーキーには無いFメジャーを織り込んできたり、クレバーなコード進行のセンスがある曲と言っても良いと思う。

そしてこれをカントリーギターのセッションミュージシャンとして大御所であるジェームス・バートンやグレン・キャンベルに弾かせて、ハル・ブレインにドラムを叩かせている。
無名の新人が会社の金に物を言わせてこれだけの一流ミュージシャンを使いこなして史上初のカントリーとロックとポップの融合を自作曲でプロデュースした、歴史的に画期的な曲であり出来事だったと言って良いだろう。
モンキーズがあまりに作られた偽物というパブリックイメージになってしまったが故に、この一大発明はかなり過小評価されている。非常に残念なことである。


A-6 "Take a Giant Step"
• 作詞作曲:ゲリー・ゴフィン&キャロル・キング
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ
• コーラス:ミッキー・ドレンツ、ロン・ヒックリン
• アレンジャー:レオン・ラッセル

シングル「Last Train To Clarksville」のB面としてアルバムに先行してリリースされた。
キャロル・キングの曲をレオン・ラッセルがアレンジするという、後にこの二人がスーパースターになることを思うと夢のような企画なのだが、曲自体はキャロル・キングらしくない平坦な曲で、それを補うかのようにアレンジされてゴリゴリのラーガロックに仕上がっている。
このアレンジ自体もレオン・ラッセルの意思がどの程度あったのか分からない。
とても評価しにくい曲である。


B-1 "Last Train to Clarksville"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ
• コーラス:ピーター・トーク

泣く子も黙る大ヒットデビュー曲。
ビートルズのPaperback Writerにインスパイアされたとされる印象的なギターリフはルイ・シェルトンがセッション中にアイデア出しして採用されたもので、ルイ自身がレコーディングでも弾いている。
ルイ・シェルトンはこのアルバムでマイク・ネスミスのプロデュース2曲を除く全ての曲でギターを弾いている。

全章Part 5で書いた通り、ベトナム戦争の世相を背景にした歌詞で、列車の汽笛を連想させるようなコーラスなど非常に凝ったアレンジになっている。
この曲の完成度がここまででなかったらモンキーズのプロジェクト自体どうなっていたかわからない、それくらい良く出来ていると思う。
裏を返すと、この曲以外にファーストアルバムには強力なヒットチューンが無い。


B-2 "This Just Doesn't Seem to be My Day"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:デイビー・ジョーンズ
• コーラス:デイビー・ジョーズ、トミー・ボイス、ボビー・ハート、ウェイン・アーウィン、ロン・ヒックリン

一番ラーガロック色が濃い曲。イントロの旋律がモロである。
イントロの怪しい旋律が終わると、いきなりバブルガムポップのノリに変わる。
デイビー・ジョーンズのボーカルはこういうポップな曲調に良く合う。


B-3 "Let's Dance On"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ
• コーラス:ミッキー・ドレンツ、ピーター・トーク、トミー・ボイス、ボビー・ハート、ウェイン・アーウィン、ロン・ヒックリン

当時のエイトビートの曲としてはかなりbpmの速い曲なのでは無いだろうか。
今聴くと勢いはあるがいかにもカラオケに歌を後で乗せましたという感じの分離した印象が拭えない。
ボーカルもミッキーにしてはかなり弱い。


B-4 "I'll Be True to You"
• 作詞作曲:ゲリー・ゴフィン&ラス・ティテルマン
• ボーカル:デイビー・ジョーンズ

珍しくゲリー・ゴフィンがキャロル・キングではない作曲の歌詞を書いている曲。。1965年1月にリリースされたイギリスのバンドThe Holliesのカバー。
ラス・ティテルマンは後にランディ・ニューマンやライ・クーダーやリッキー・リー・ジョーンズやスティーブ・ウィンウッドなどの名盤をプロデュースすることになる人。
この曲もかなりバブルガムポップで、デイビーはこのエリアの役を一手に引き受けている感じを受ける。とにかくボーカルが甘く上手い。


B-5 "Sweet Young Thing"
• 作詞作曲:マイク・ネスミス、ゲリー・ゴフィン、キャロル・キング
• ボーカル:マイク・ネスミス
• コーラス:ミッキー・ドレンツ、ピーター・トーク、ジョン・ロンドン
• ギター:ピーター・トーク、ジェームス・バートン、グレン・キャンベル、アル・ケイシー、マイケル・ディーシー
• ベース:ボブ・ウエスト
• ダノベース:ピーター・トーク、ジェームス・バートン、グレン・キャンベル、アル・ケイシー、マイケル・ディーシー
• ドラム:ハル・ブレイン、フランク・デヴィート、ジム・ゴードン
• パーカッション:ギャリー・コールマン
• ピアノ:ラリー・ネクテル
• プロデューサー:マイク・ネスミス

マイク・ネスミスがこのアルバムで異彩を放った2曲目。
どういうわけかゴフィン&キングとの共作名義になっている。
ダノベース(Dano Base)というのはおそらくダンエレクトロ社のボン!ボン!と短い切れた音で鳴るベースのことと思うのだが、どうしてギタリストと同じメンバー5人がこのダノベースを弾いているのか。
そしてドラムはハル・ブレインを含む3人もいる。
なぜかクレジットに無いのだがカントリーの楽器であるフィドルが全編に渡って鳴っている。
複数のプレイヤーを使って音を一斉に鳴らして音の隙間を無くすフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドのような作り込みになっていて、且つ曲調がかなり攻撃的でトリッピーである。
レコーディングは1966年7月。ビートルズの「I AM The Walrus」は勿論『Revolver』もリリースされる前でこのレコーディングなのだから、マイク・ネスミスの才能の過小評価ぶりに驚くばかりである。
あまりにサイケデリックなので、この曲をカントリーロックと捉えて良いのかどうかはかなり悩む。


B-6 "Gonna Buy Me a Dog"
• 作詞作曲:トミー・ボイス&ボビー・ハート
• ボーカル:ミッキー・ドレンツ、デイビー・ジョーンズ

完全なお遊びの曲。
テレビショーのハチャメチャぶりをそのまま歌に投影したようなパフォーマンスといえば良いか。
音楽的な価値はほぼ無いが、二人のやり取りが面白いのでつい聴いてしまう罪な曲である。


続く。

次は大波乱を生むセカンドアルバムについて書きます。

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