飴色の街(1)

 車輪の軋む音が耳をつんざき、目が覚めた。僕はトロッコの上にいた。急なカーブに差し掛かっていたからか、その音はひどくうるさかった。起き上がって外の風景を見渡すと、民家のひとつも目に入らないような樹海が広がっており、木々にまとわりついた霧が不気味さを醸し出している。
 僕がいつから眠りについていたのか、そもそもいつ、僕がこのトロッコに乗っていたのか、皆目見当がつかない。僕は方向感覚が良いようで、東の方からきて、先ほど差し掛かったカーブによって、北に向かっていることだけが分かった。
 僕のいるトロッコのひとつ先に、恰幅のいいおじさんがいた。
「運転手さん。あの、これどこに向かってるんですか?」
 トロッコに運転の概念があるのかと言われれば甚だ疑問ではあるが、おじさんは如何にも「運転手です」と言わんばかりの、きっちりとした恰好をしていたため、運転手、と話しかけた。
「これから行くのは、飴色の街であります。飴色のように曖昧、そんな街であります。きっと、あなたには覚えがある場所ばかりでしょうけれど、決して、あなたの知る町とは違う場所であります、ゆえ、混同せぬよう、お気をつけ願います」
「混同?」
「中にはそういった方も来られます。むしろ多いくらいであります。あなたは……失礼、切符を見せていただけますかね。えーっと……右ポケットの中にありませんか?」
 そう言われて、ズボンの右ポケットに手を入れると、磁気コーティングされた紙を取り出した。
「……青色の切符。なるほど……久方ぶりに見ました。これが赤色だったら……」
「赤だとどうなるの?」
「赤色の人間は、先ほど申しあげた通り、北の町と自身が元々住んでいた町とで混同して、帰れなくなります。ま、それが良いと言われればそうなのかもしれませんが」
「赤色の人は止めてあげればいいのに」
「わたくしにそこまでをする給料は支払われておりません。し、私たちの仕事ではありませんので」
 そういうと彼はまた、トロッコの進路方向を見て、運転(?)をして始めた。彼がとってつけたようなハンドルを握ろうが握らまいが、トロッコは一定の速度で進み続けていたが……。
「あなたは、おひとりですか」
「……おそらく」
「そうですか。でしたら、終点で降りた後、『先生』に会ってください。この町のことを教えてくれるでしょう」
「あの、そもそも僕は、なんのためにこのトロッコに乗ってるのかもわからないんです。何か知りませんか?」
 ずっと疑問に思っていたことを、運転手に問うた。
「それを見つけるのがあなたの役目です。ほら……そろそろ終点ですよ。切符のお話も、この先についても、本来は私がしゃべるほどの給料をいただいておりません、が、あなたには言うべきだと思ったので。感謝を噛みしめておいてくださいよ」
 森が開け、霧が町を包んでいる。ブレーキで軋んだ音が鳴り響き、駅のホームに着いた。
「さ、終点……飴色の街です。良い旅を」
「あの、先生ってどこにいるんですか」

「そこまで説明する給料は支払われておりませんので」

 そういうと、トロッコはもと来た線路を辿っていった。


牛丼を食べたいです。