前立腺レクチャー2:直腸診
直腸診は前立腺がんや肥大症の診断の基本の検査です。使い捨て手袋をつけ、ゼリーをつけて人差し指を肛門から入れます。ちょうど指先あたりに前立腺がありますので簡単に触れます。中には体格が大きく指が前立腺に届かないことがあります。典型的な肥大症は表面は平滑でやや弾力がある様に触れます。典型的な前立腺がんは硬く、時に石の様に硬く触れます。世界中で血液のPSA検査が普及し始めた1990年代前半からPSAと直腸診による前立腺がん検診が始まりました。私がいたヒューストンのベイラー医科大学でも始まり、ラジオなどで無料でできる検診を呼びかけたら数千人の方が来院しました。流れ作業でPSA採血、その後直腸診と超音波の検査をしましたが、泌尿器科医になってからも一度にあれだけ多くの直腸診をやったことはなく、仕事終了時には人差し指が腫れてしまいました。基本の検査ですが、指の感覚ですから主観的です。ベイラー時代のボスのスカルデイーノ先生からやりかけのプロジェクトをもらい大喜びしたら、内容は米国の大御所と呼ばれる人たちの直腸診の診断としの能力を精査するプロジェクトでした。その結果たるや散々で前立腺がんがあるかどうか、ある場合、がんが前立腺を包んでいる膜を超えて外で出ているかなどを直腸診でどう判断し、実際の結果はどうかということなのですが、極めて大きながんの場合はそれなりに当たりますが、それ以外はどの有名な医師の指をあてにならないのが明確になりました。結局、このプロジェクトは予想通り頓挫しました。それでも直腸診はいまだに大切だと思う理由は、PSAがあまり上昇しない前立腺がんの存在です。現在は前立腺MRIの前世時代で、多くの若い先生が直腸診をせずMRIだけをみて判断しますが、MRIも実は完璧ではありません。あくまで直腸診はMRIや超音波などを補完する検査かもしれませんが、「診察」することは極めて重要だと思います。
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