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未来を生きる人へ②

2020/11/10 午後1時
足立区役所区議会棟8階

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また、政治家の前にいる。



荷物を下ろして一息着く間も無く、あちこちから名刺を差し出され、返すものがない私はただ笑顔で受け取るばかりだった。まさかここで会社名義のそれを出すわけにもいかない。


私はメディアの人間だ。





ひとしきり挨拶も済んで一同着席。



なんでだろう

前回よりずっと落ち着いている。椅子の座り心地がいいとか、テーブルが少し高すぎるとか、出されたお茶の甘みが強いとか、細部まで鮮明に記憶に刻まれていくのがわかる。

出力する時間がなかった都合で原稿を入れっぱなしにしていたパソコンを立ち上げたところで、何やら入り口が騒がしくなる。外から駆け足気味に入ってきた職員が誰にともなく「いらっしゃいました」と声をかけた。

同時に、入ってくる役者を迎え入れるADの「入られまーす」という叫び声が頭の中で響き渡った。

そのことにまた自分の落ち着きを感じてマスクの下でこっそり笑ってしまう。



現足立区長がその職に着任したのは2007年。警視庁警官を務めたあと税理士を経て、30代後半で東京都議会議員になった。その後三期目で辞任し、現職に着いたらしい。



後から知ったけど、区長は区役所内で働く議員ですら滅多にお目にかかれないレアキャラだそうだ。



彼女の登場は予想外に静かなものだった。



名刺が差し出され、やはり返すものがないまま受け取る。きれいな人だった。造形的な美しさ以前に、笑顔や女性らしい所作で飾らない剥き出しの強かさや自信が香っていた。ピシッとスーツを着こなした人の強さに対して信用や頼もしさを抱かせられるのは珍しいことではないけど、ここに美しさという感動が伴うのは女性特有のことだと思う。


さて、はじめましょうか


彼女の仕草に誘われて再び着席する。

原稿を読み上げる私は、行ったこともない深海で流れに身を任せているような気分だった。



前回の記事で結局触れることのなかった意見交換会に参加した当事者は、私を含め6人。ひとり7分の枠が与えられた。ジェンダーもセクシャリティも職業もバラバラ。日常生活の中では絶対に交わることのない6人の言葉の先にあるのは、足立区議会だった。

ある人はこれまでの人生に起きた苦しい経験を、ある人は自身のからだが心の性に追いつくまでの経緯を語った。

私はただ、私のことを話した。

平凡な25歳の会社員である私が
子どものいる家庭を望む私が
足立区民である私がここにいる話をした

チャンネルを持っていて欲しい

その言葉を原稿に付け加えたとき、いいこと言ったなと自分を褒めたくなった。


逃げ出したい気持ちを堪えて存在を明かすから、他人事にしないでほしい。隠れずきちんと顔を出して目の前に立つから、誰も「知らない人」にされない世界を未来の子どもたちに用意してあげてほしい。

そんなことを、怖くて怖くて張り裂けそうな気持ちのまま話した。7分には収まりきらなかった。





だから前回より4分短い持ち時間はなんとしてでも厳守した。原稿の中から不要な部分をちまちま抜き取り、3分間の自分語りはあっという間に終わった。


こんなときこそ隣にいて欲しいのに、パートナーであるナチコは事前に知らせていたにも関わらず仕事を請け合ったせいでこの場にいない。




同性カップルの子育てが存在していることを知らなかったと明かした区長が、どうしてほしいかと問う。

わからないから、教えてくれと言った。

そのことが自分でも驚くほど嬉しかった。

そういえば私、一方的に明かす(それも大抵がネガティブな理由から)ことはあっても尋ねられたことはなかったな。

いますか?
と問われて返事をしにきたこの状況と、
あなたは誰ですか?
と質問されていることが新鮮だった。



困ったって誰に言えばいいかわからなかったし、そういうもんなんだと思う癖がついてしまっていた。それを改めて痛感する。



質疑を含めたあの時間は、とても前向きで心地いいものだった。

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