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まさかの決定打

23歳の冬にナチコとの「地元のイオンで久しぶりに見かけた中学の同級生」的再会を果たし、今思えばちょっとホラーな勢いでこちらのペースに巻き込み見事彼女を居候化させた私。

その後4ヶ月ほどの「ただの同居人期間」をのんびり仲良しスローライフに費やすような女ではありません。

先天性のケチである私は時間もお金も無駄にしたくないせっかち人間なので、理想的な恋人の条件に彼女がどの程度当てはまるかを検証すべく意気込んでいました。もちろん相手が私を見定める期間でもあるのですが、私はこれをとても業務的にこなしたのです。

ひと月も毎日一緒に過ごせばだいたいの性格が見えてきます。

ナチコは一人暮らしというものをしたことがない人なので、交際当初の家事スキルはほぼ皆無。料理はもちろん、洗濯機を動かすことすらできるか怪しい…という状態だったのですが、掃除だけはこまめにやってくれました。ただし手足が濡れることを極端に嫌う猫みたいな人なので、水回りはもちろん排水口は絶対に触らない。長子である私には難解すぎる真ん中っ子特有の器用さで上手く使われる場面が頻発。その度に「くっそー、またか!」と発狂する私。しかし裏を返せば長所と短所のバランスがいい。気がしなくもない。

と、内心ガッツポーズを決めたものの、どうにも釈然としない。

というか、しっくりこない?

再会した瞬間に感じたあの衝撃に直結するものが見当たらない。やはりこの人か!と思うような決定的なフィット感がないというか、なんというか…

ま、でもね

穏やかでフラットな生活を欲していた私にとって、ここまで精神的に安定してお付き合いできる相手というのはとても楽。

共同生活を始めて2ヶ月、そろそろなにか起きてもいいんじゃない?と思いはじめた頃、転機はやってきました。

それはぼちぼち桜の花が開き始める頃。
夜、いつも通り夢と現の境を彷徨いながら「お尻でだいたいの年齢がわかる」だの「あのカップルはそろそろ潮時」だのと下世話な話をしていたのがどう転んだのか、子育てについて話題が持ち上がりました。同級生がぼちぼち結婚しはじめたとか、そんな話の流れだったはずです。

細めた目で白い天井を見上げながら、私は子どもを産み育てているレズビアンカップルの話をしました。と言うのも、私は過去に子どもを持ちたいLGBTQを支援する団体(一般社団法人こどまっぷ)の座談会に、パネラーとして参加した経験がありました。二丁目にあるお気に入りの店のオーナーが『将来子どもを持ちたいセクシャルマイノリティー当事者の学生』をTwitter上で探していて、ほとんど好奇心だけで手を挙げたのが20歳の私。そのときの対談相手が、当時6歳の息子を育てているレズビアンカップルだったのです。

ほんの雑談のつもりで切り出した私が話している間、隣にいるナチコはうんともすんとも言いません。あまりの反応のなさにてっきり途中で眠ったのだろうと思っていたので、至近距離で見た彼女のまぶたがばっちり開いていたことには心臓が飛び上がるほど驚きました。ヒェ!と悲鳴をあげた私に気づいていない様子のナチコ。なにやらボソボソ言っています。

え?なんだって?

「レズでも子どもつくれるんだ…」

耳を澄ませて聴き取れた言葉とキラキラ輝く彼女の瞳を見た瞬間、バチーーーン!ときました。
きちゃいました。

そう、これが決定打。

小さい頃に憧れたお城がラブホテルであると理解したとき(ちがうな)、シーチキンの正体がマグロだと知った瞬間(あーこれもなんかちがう)みたいな、とにかく「そうか!そういうことか!」と、全てがつながって脚をバタバタ振り回したくなるほどの急速にこみ上げてくる満足感。

こどもがほしい!と声にしなくてもわかるほど露骨に書いてある顔を眺めながら「あぁ、とんでもない人の胸に飛び込んでしまった」となんだか複雑。
しかしスッキリ。

そこから話は早かった。

母親になる方法を知っていた私と、知識はないけど子どもを産み育てたいナチコ。

余談ですが彼女、子どもほしさに医者の男を捕まえて結婚する未来を本気で考えていたそうです。
なんで医者?と思いますよね。医者なら家に帰ってこないから愛人(女)作って家に連れ込んでもバレないからだってさ。そこまでしても男と添い遂げる気がないレズ、ちょっと笑っちゃったわ。

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