ずるい女


交際相手と喧嘩した。
ものすごく些細なことで。

お互いに「相手はこのあと自分がどうするかわかっているだろう」という過信をしたせい。

自分から「こうすればよかったね」「ごめんね」を言った直後に、私っていつからこんなに素直な人になれたのかなぁとふと思う。彼女だって私に謝るべきなのに、さっき逃げるようにシャワーを浴びに行ったきり戻ってくる気配がない。そのことに腹を立てながら、一方で、はやくこの険悪な空気を追い払いたい、彼女にいつも通り笑ってほしいと思う自分がいる。


小学生低学年くらいのころだったかな。母と喧嘩をして、泣きながら怒鳴り散らしたことがある。確か4歳下の弟を突き飛ばしたのが発端だった。自分が悪いことは理解しているくせに、素直に謝るのが悔しい私はあれこれ言い訳を並べて泣き喚いた。

一般的な母親ならここで子どもの誤ちを説明したり、次からはどうすべきか考えさせたりするところだろう。しかしうちの母はそのどちらもしなかった。まだサンタの存在を信じているような年齢の娘が泣き止むのを静かに待ったあと、いかにも落ち着いた声で「怒鳴ったり泣いたりして、謝らずに済ませようとするのはずるい女がすることやで。お母さん、そういう女の人は大嫌い。」と母は言い放った。


その皮肉な言葉は当時の私をさらに苛立たせたし、今振り返ってみてもその年頃の女の子に対する説教としてはかなりパンチが効いている。ていうか理解できるの?と。
しかし内心その通りだと認める自分もいたのかもしれない。その証拠に、20年近く経った今でも私は誰かと対立するたびにその言葉を思い出すのだ。

「怒鳴ったり泣いたりする」のはコツを掴めばすぐに堪えられるようになったものの、ずるい女はなかなかやめられなかった。自分より対立する相手の方が罪であることを主張して、謝らずに(少なくとも自分からは謝らずに)済む方法を探してしまう。小さいころから妙にプライドが高くて、未だにやってしまう悪い癖だ。相手を言い負かして先に謝罪を口にさせるたびに、本来自分が負っていた罪に後悔が上乗せされて仲直り後も気分が重かった。


だから、交際相手に対してすんなり自分から謝ったのは大きな成長に思えた。うっかり喧嘩中であることを忘れて感動してしまった。

暑がりな彼女が湯船で時間を潰すのもそろそろ限界だろう。すぐそこに仲直りの予感がしている。私はずるい女を卒業したのだ。

#喧嘩  #カップル #謝罪 #母 

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