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【感想・レビュー】 映画「ちいさな独裁者」を観た。 人間性の割れる音を聞いた。

映画「ちいさな独裁者」を観て、感じたことや考えたことをつらつらと。


あらすじ

「ちいさな独裁者」(原題は「Der Hauptmann」で、直訳すると「大尉」という意味)は、第2次大戦末期のドイツで起こった「実話をもとにした」映画です。

部隊を脱走(←軍規違反、最悪処刑)をした主人公ヘロルト。彼は逃亡先で、放棄された軍の車両から軍服と勲章を発見します。ヘロルトは自らを、ヒトラーからの特命で後方を視察しに来た「大尉(Hauptman)」だと偽り、出会う人々を話術と演技とで支配下においていく...  という作品です。

詳しくはこちら(公式サイト)


印象的だったのは

WW2のドイツ末期を描く作品の多くでユダヤ人が登場し、被害-加害の構図で語られがちですが、本作はドイツ人しか出てきません。ドイツ人 対 ドイツ人の映画です。これは少し珍しい気がします。

いくつも印象的なシーンが有ったですが、その中でもやはり処刑とそれに続くシーンは印象的でした。個人的にはプライベート・ライアンの冒頭よりもインパクトありました。 (しかも史実のほうがもっと残虐なことをやっているという事実を公式HPでさっき知りました)。

ただ、処刑そのものよりも、それに続くシーンのほうがより印象的で、ここで私は人間性が砕ける音が聞こえた気がしました。

(上映中ですし、映画の核かもしれないシーンなので詳しくは伏せますが、観た人に向けると、フライタークが命令で中に下っていくあのシーンです。)


上映後

上映後少しの間全身から力が抜けて立てませんでした。そういう映画でした。

ぼーっと席に座っていると、隣りにいた おばあちゃん達が「ああいう状況じゃ皆ああなっちゃうのかしら。戦争って怖いわね〜」と話しているのが聞こえました。 


それを聞いてふと「本当に怖いのは戦争なのか」と疑問に思い、考えました。(というより、考えさせられていた、という方が適切かもしれません)。


帰路につきながら

ところで、4A Gamesさん開発の「Metro Exodus」というFPSゲームをご存知でしょうか。はい、知らないと思います。いいゲームなのでプレイしてみてください。PC, PS4, Xbox oneでプレイできます。

Anyway, このゲームに登場するイディオットというキャラクターがこんな話をします。曰く、

よく知られている現象ではあるんだが、厳しい次代が訪れると、人々の合理的思考というのはすぐに失われてしまうそうだ。迫る危機、食糧不足、そんなときに人類の本性に潜む獣が目を覚ます… 普段は眠っているこの獣が頭をもたげるんだ。
この獣が必要とするものはそう多くない。群れ、指導者、食料、それに敵。こいつらは複雑なものを嫌い、白黒ハッキリしたものだけの単純な世界を好む… 

帰りの電車の中で、彼のこの言葉が反復し、次の言葉も思い出しました。

人類は自然災害や飢饉、圧政を敷く王には打ち勝ってきたが、ついぞ心に潜む獣に打ち勝てた試しがない。

(ニュアンスはこんな感じですが、原文ママではなく、記憶にあるのを再編集してます。おそらくこのゲームで表現だと思うのですが… どなたかわかるかたいたら@mnt371まで教えて…)。


また、次の映画のとあるシーンを思い出しました。

これはまたドイツの映画ですが、『帰ってきたヒトラー』(原題:Er ist wieder da 、直訳: 彼がまたそこに)をご存知でしょうか。


「もしヒトラーが現代のドイツに帰ってきたら…?」という仮定をそのまま映画にしたような作品で、映画の半分が実際に街に出て撮られている、半ドキュメンタリーな映画です。


思い出したのは、主人公のサヴァツキがヒトラーを「怪物め」と蔑むシーン。そこでヒトラーはサヴァツキに対し、次のように答えます。

「私が?なら怪物を選んだ者を責めるんだな、選んだ者達は普通の人間だ。優れた人物を選んで国の命運を託したのさ。なぜ人々が私に従うのか考えたことはあるか? 彼らの本質は私と同じだ。価値観も同じ。私からは逃れられん。私は人々の一部なのだ。」


本当に怖いのは

「ちいさな独裁者」を観たあのおばちゃんの言っていたことも確かだと思います。「人は戦争などの極限状態では恣にどんなに残虐なこともしてしまう。だから戦争は恐ろしい

これは正しい。正しいが、私はそれだけじゃないと思います。


むしろ我々は、イディオットのいう我々の中に潜む獣を、ヒトラーのいう人間の本質を、「Metro Exodus」や「ちいさな独裁者」で描かれた、人間の残虐性と、命令による思考の放棄こそを恐れるべきなのではないでしょうか。

そして、さらにやっかいなのは、その獣はある種 ”理性的である” と言うことです。「ちいさな独裁者」ではヘロルトを人類の残虐性の象徴として描いていますが、「彼は非理性的か?」と問われると、答えはNein(ノー)です。
むしろ彼は自らに都合の良くなるように交渉したり、欺いたりと、理性を最大限に発揮します。彼は理性を失ったわけではないのです。

(このあたりのことはカントのいう善意思に似てるなと思いました)。


仮にもし、我々が極限の状況に置かれたら、私は、あなたは、この獣に打ち勝つ事ができるのしょうか。



関連リンク

「ちいさな独裁者」公式サイト
「Metro Exodus」公式サイト
「帰ってきたヒトラー」公式サイト

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