「ヒトノカタチ」STORY1:ある1日

ピピピピ、ピピピピ…
部屋にアラーム音が響く
「ん、んんん…」
ベッドの人型をした布団がうごめく、布団から手が伸びて目覚まし時計のボタンに手をかけようとしたとき、ドアが開き
「おっはよーございます!」
子供らしい人物が勢いよく入ってきて、おもむろに
「はいはい、起きて!」
と言って布団を剥ぎ取ると、褐色肌をした人物が起き上がる

「んん…おはよう、ミイ」
そう言うと半ば子供に引っ張り出されるようにドアに向かう
「あっさごはーん」
子供の方は元気のようだ

ドアを抜けてダイニングルームに向かうと朝ごはんの準備ができている
「おはようございます、レイアさん。今日は新鮮な卵が入ったのでスクランブルエッグです」
長身の男性が朝食の準備をしていた
「ああ、おはよう。マッサン」

目をこすりながらも椅子に座ると、他の二人も一緒に座る、そして
「いただきまーす」
3人の声が部屋に響く

一見するとかつて地球上にあった家族団らんのように見えるだろう。しかし、実のところレイア以外はアンドロイドなのだ。
この星の住民の多くはアンドロイドとともに人間と同様な生活を演じているといった言い方が正解だろうか。共に食事をし、そして寄り添う…一応アンドロイドの仕組みとして食事をエネルギーに変換する仕組みはあるのだが、本来そういう仕組みは無駄な部分であり、機械として運用するほうが効率がいいのも事実で、実際そういう運用をしている人もいる。しかし多くの住民はあえて人間と同じ生活をさせて寄り添う方向を良しとしている。その方が人間味が出て良いというからである。
そして多くの人達は人類の歴史上でもっとも人間味のあった20世紀から21世紀まであたりの生活をしているのだ。今の技術ならもっと効率のいい生活ができるのだがその技術をあえてその頃の生活を再現するために使っている…そしてそれらを再現するために人間と遜色ない姿と仕草をするアンドロイドは必要不可欠なのである。
それはまるで長かった開拓時代や大戦の時代の中で失われてしまった”人間味”というものを追憶するように、である。

「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
レイアと男性の2人が玄関を出て駐車場へ向かう。
「今日はロボ検だろ?まああんたはショップの主人も太鼓判を押す丈夫さだから、心配はしてないよ」
「ありがとうございます、ちなみに夕食は作り置きが冷蔵庫にありますからもし遅くなったらそれを温めてください」
「オッケー」
2人が車に乗り込む

「なあ、初めて出会ったときのこと、覚えてるかい?」
「…ええ、覚えていますとも。まだレイアさんがこの星に来たばかりで戸惑いつつも根付こうとしてた時ですよね」
「ああ、長く戦場にいてようやく平和な場所で暮らそうと思ったんだよな…そんな中であんたと出会って」
「そうですよね」
「まあ自分は本当は女の子好きだったんだけど、まさか男性に惚れるとはね…作り物ではあるけどそれがむしろ本当の人間以上に人間らしく見えちゃって」
「でも最初は戸惑ったんでしょう?」
「最初ここにあふれるドロイドを見たときはちょっと気持ち悪いなんて思ったもんだよ。戦場にいるロボットなんてメカむき出しのようなのがほとんどだったからね、でも見れば見るほどここの住民たちが惚れる意味がわかった気がしてな…」
「そうですか。ところでここに来て警察官になった理由って?」
「まあ自分が人から慕われる立場になりたかったというところを探っていったら自然とそこに行きついたんだ。まあ元々狙撃手だったから都市部の警察からもオファーがあったけどあえてのんびりしてそうなここを選んだんだ」
「ところで、自分が言うのもなんですけど家事手伝いには自分はオーバースペックだとは思うんですけど、その辺は?」
「あんたがなんでも屋のお陰でローンも早く返済できたんだよ、それは間違ってなかった」
「こんな地方だと家事や介護に特化したようなモデルが多いですからね、何でも屋って重宝されるので常に引っ張りだこですよ」
「そうか、そのおかげでミイちゃんもお迎えできたからね」
「あの子は容量がギリギリのせいで安かったけど、容量の殆どがお菓子のレシピなんて思ってもなかったですよね。おかげで自分のレパートリーも増えましたよ」
「そうだな…っと着いたぞ」
「はい、じゃあ行ってきます」
そういって男性が降りていく

「カイさん、じゃあ、お願いしますね」
「じゃ正(まさ)さん預かっとくわ。なあに、心配はいらん。このぐらいなら半日で終わるよ。」
小さな生き物と話をした後、また車に乗り込んでいく

そして署について、ロッカールームに向かう。すでに先客がいるようだ
「おはようございます!先輩」
「おはよう、春香ちゃん」

2人が挨拶もそこそこに着替えると、隣の大きめなロッカーを開ける。中にはドロイドが入ってるようだ。そして繋がれているコネクターを抜くと、ドロイドが目を覚ます。
「おはようございます、マスター」
「おはよう、さくらちゃん」

そういって顎クイをすると
「いやだ、いつものことだけど、そんな目で見ないで」
そして隣では
「おはようございます~」
「おはよう、こさぎちゃん」

どうやら子供タイプのアンドロイド…コドモロイドのようだ
「じゃ、行くかな」
4人が事務所に向かう。
この世界では就職するとパートナーとしてドロイドが1人ついてくる事が多い。当然仕事用では運用は機械的ではあるが、パートナーらしく振る舞うようにはできている(そこはマスターの好み次第ではあるが)

朝のミーティングが始まる
『…というわけで、域外から違法改造のドロイドが持ち込まれるケースが相変わらず多いので、注意しておくように』
ミーティングが終わると
「ま、こんな地方だとあまり事件起きてないし、うちらの出る出番はないよな」
「でも作業用汎用ロボットの事故はありますし、油断は禁物ですよ」
「まあな、ところで次のイベントの脚本は進んでるかい?最近詐欺も多いし、その辺はぬかりないよな?」
「はい!大丈夫です」
「こさぎちゃんを生かすも殺すもあんた次第だからね、おかげでイベントの動画も人気あるし、精進してな」
「はい!」
こう春香と話しているとにさくらが割り込む
「マスター、そろそろお時間ですよ」
「おっと、そうだったな、じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃいー」

レイアとさくらがパトカーに乗り込み出発する
「回るとすると2A3エリアあたりかな?」
「まああの辺観光客も多いし、予測つかないことも多いし、無難ですかね」
「そうですね。ところで次の狙撃競技会の演練はどうですか?」
「ぼちぼちといったところだな。あんたの情報収集能力が高いおかげで助かってる部分もあるけどな」
「あ、ありがとうございます」
さくらが顔を赤らめて照れる仕草をする
「照れるなって、普段は生意気盛りなのにこんな時には女の子っぽくなるんだな」
「あーら、そんな性格設定にしたのは誰かしらね」
「まあ仕事用とはいえどやっぱりちょっと生意気ぐらいなほうがいいと思ってな」
「ふーん、そんなものですか」
こんな他愛のない話をしていると突然警報音が鳴り響く
『2A3エリアで事故発生。子供型ドロイドと車との衝突事故、現場へ向かいます』
そうするとパトカーのサイレンが鳴り響き、目的地へ向かい始める。
「おっと、ちょうど向かうところだったからちょうどいいかな」
「ですね、今入ったところでは被害者はコドモロイドのようです」

現場についた。事故を起こしたであろう前部が少しへこんだ車と、被害者であろう内部の機構が少しあらわになったコドモロイドが倒れている。周りでは多くの観光客がいるようだ。
「自分は運転者の方に行く、あんたは動揺してる親御さんのフォローに向かって」
「はい」

「いやー、ちょっと気分転換に手動運転で楽しんでたら突然飛び出してきてさ」
「おいおい、ここ一帯は手動運転禁止区域だよ?わかってる?」
言葉をかわしながら事故の手続きを進める。対応が終わったさくらが寄ってくる。
「マスター、周辺の防犯カメラとドラレコのデータ取得終わりました。あとやっぱりですけど、あの子ファーム割ってる個体みたいです」
「やっぱりか…たまにあるケースだよな。お互い違法同士になるよな」
2人は淡々とその後も事故処理を進めていく。

2人が事故処理が終わり、署に帰ってくる。
「いやー、久しぶりだよな、あんな事故のパターンは」
「これから観光客も増えますし、なにが起こるかわからないってことで」
談笑もそこそこにレイアが春香の元によって行く
「どうだい、次のイベントの準備はできてるかい」
「とりあえず脚本はできました。あとはすり合わせをやっていくだけです」
「了解。まああんたが元演劇サークルの脚本担当ってことでその辺はよくやってくれてるよ。期待していいよな?」
「はい!頑張ります!」

ーーーー

退庁時間になる。4人が更衣室に向かい帰り支度を始める。レイアと春香はそれぞれさくらとこさぎにコネクタをつなぎ、
「じゃ、明日もな」
さくらを顎クイしてしまう。さくらは照れる仕草をしながら目をつむる。
「また明日ー」
「はーい」
こさぎもそんなやり取りをしながら目をつむる。

「ただいま」
レイアが家に帰ってくる。
「「おかえりなさい」」
2人が声を上げる。
「おう、もう帰ってこれたのか。早かったな」
「ええ、特に異常はなく終わりましたよ」
「そうか、良かったな」

「「「いただきます」」」
TVを見ながらの夕食が始まる。こんなのも昔の光景を写してるのだろう。
『違法にアイドルの身代わりドロイドを作っていたグループが摘発されました。犯人は…』
「相変わらずこのパターン多いよな。うちでも重点的にやるように喚起されているよ」
「そうですよね。なにかにつけて楽をしたいんでしょうけどねえ」
「まあ自分は身代わりなんて考えたことないけどな。気持ち悪いだけだね。でも魔が差すって言うか、アイドルの握手会で本人が身代わりだったことがあって大騒ぎになったことがあるけど、中には迷惑行為をする人がいるからというのもあるからねえ…気持ちはわかるよ」
「そうなんでしょうねえ」
そんな話をしているとミイが割り込んでくる。
「あ!また一つレアソフトが復元されてるって!買っていいかな?」
「また古代のゲームか…いいけど今月はあと1つだからな」
「うん!」
「しかしまあ、あの”キューブ”にはまだどれだけのソフトが眠ってるやら…まだ出てきそうだけどなあ」
”キューブ”というのはここの住民の祖先が地球を飛び出す前にあらゆる要素の情報を詰め込んだ記憶媒体のことだ。その内容があまりに膨大すぎるために未だに解析しきれていない部分も多く、常に新しい発見がなされているようだ。
「またどんなのが出てくるのか楽しみだなあ」
「ま、無理なく課金の範囲なら楽しんでくれていいんだけどな。喜ぶ顔をみたいからね」
「えへへ」
そんなたわいのない話が続く

「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
正とミイ、レイアが寝巻に着替えてそれぞれの寝室に入る。正とミイは部屋に入りベッドに座るとそれぞれケーブルを体につなぎ、電気を消してそのまま横になると同時に目をつむる。
「寝ている」時間というのは補充電とデータのバックアップの時間になるのだ。この辺がやはり機械らしい姿を見せる時となる。
しばらくするとレイアが部屋のドアを少し開けて様子を見てきたようだ。
「スー、スー…」
2人は寝息を立てながら寝ている…もちろんこれはギミックではあるのだがそんな”らしい”感じをときたま見るのが楽しみらしい。
「(ふふ、良く寝てるなあ)」
そんなことを思いながらドアを閉め、また自分の部屋に戻る。

こうして1日は過ぎていく…

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