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【感想】動物園で逢いましょう(五條瑛)

ちょっと本編を離れて。
本作は、いくつかの短編が書き下ろしで繋がれている連作集です。
短編はそれぞれ異なる事件を扱っているのですが、少しずつ共通する要素やテーマがあり、ひとつの流れが出来上がっています。
書き下ろし部分で、上司の“エディ”の指示により主人公である葉山隆は、ある情報提供者―元新聞記者の仁志と会うことになります。ふたりが会う場所が毎回上野動物園なんです。だからタイトルが「動物園」なんですね。
隆さんは、檻の中の動物と、情報の世界という檻に囚われ、しかしそこから逃げ出そうとはしない自分を、そして、それぞれに柵の中で生きる人間の在りようを重ねます。
相変わらず、何を見ても陰鬱なことを考える隆さんですが、その一方でかわいいからとパンダのコーヒーカップを買って帰っちゃったりするあたり、本人としては通常運転なんでしょう。
読者にとっても悲観的なところのない隆さんなんて想像つかないので、なんら問題はない(笑)

防衛省や米軍から北への情報流出。冬樹さんの仕事を手伝わされる隆さん。事件にかかわる人々それぞれの、守るべきものの選択。最後には軽やかに抜け目ない東京姫。
仲上さんやタキさんも登場し、登場人物としてはなかなかのオールスターです(さすがに某S様はいらっしゃいませんが)。
ストーリーとしては単独で読めると思うので、手に取れる機会がある方はぜひ読んでみてください。琴線に触れた方はぜひ鉱物シリーズ本編へ。

本作でも、隆さんが何かにつけ上司の文句を言うのはいつもどおり。
肝心なことを隠されてツンツンした隆さんがエディにうまいこといなされるのも、結局エディの期待どおりちゃんと真実にたどり着くのも。
鉱物シリーズ定番の流れなわけですが、実はエディが大事に大事に隆さんを育てているらしいことを知ってしまうと…これまでの物語に込められたエディの想いを知ることができたらと願わずにはいられません。

ちなみに、表紙の動物園の地図は、よく見ると隆さんが仁志と会った場所にピンが打ってあるニクイ演出。
あとは単行本裏表紙のパンダのコーヒーカップ!たしかにかわいい。コーヒーを出されたタキさんが思わず笑ってしまいそうになる気持ち、わかります。