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石橋啓一郎氏に聞く「プロ翻訳家」のお仕事(3)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

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先週に続き、翻訳家で筆者の中学時代からの友人である石橋啓一郎氏との対談を続けていく。

石橋氏は仕事の一部としてゲームの翻訳も手がけている。最近はゲーム関連のニーズが増えているようだ。

一方、我々は「ゲームにおける翻訳」がどんな仕事かを知らない。雑誌やウェブの記事、小説などならなんとなくイメージが湧くけれど、ゲームでの翻訳が実際どのように進んでいるかは知らない人の方が多いのではないか。

今回は、そんな「ゲーム翻訳の今」について聞いた。

なお、友人同士の間柄なので、ちょっといつもの対談よりくだけた話し方になっている点は、ご容赦を。(全5回予定)

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■同じ「翻訳」でもスキルやツールはジャンルで変わる

西田:翻訳にもいろんなジャンルがある、という話があったけれど、ツールの活用が進んでる業種ってどこなの? やっぱりITとかゲームとかそっちが進んでる感じ?

石橋:そうだと思う。さっきも言ったように特許の分野とかでも進んでると思う。要するに、過去の資産を活かしたい業種というか。

西田:はいはい。

石橋:やはり同じプロジェクトを同時にたくさんの人でリアルタイムにやらないと間に合わない業種。ITのマニュアルなんかはその最たるものだし、ゲームだって、リリースまでの短期間でやらないといけないとかね。そういうような事情があったりとか、お客さんとのやりとりもツールを介して行うだとか、そういうニーズもあるので、そういう分野では進んでいて。

逆に文芸翻訳とかでは、いまだに「翻訳ツールは邪悪なので使ってはいけない」という人がいたり。

西田:(笑)。

石橋:それもよく分かるんだけどね。

翻訳ツールって、前に説明したように文単位でデータを管理してるので、そのツールに慣れてるとさ、文をぶつ切りに見るようになるんですよ。一文単位で。

ところが例えば文芸翻訳というのはそんなもんじゃなくて、元の文章の流れを日本語の流れで表現するわけでしょう。原文の文章を読んだ時に見えたのと同じ絵が、日本語の読者にも見えるような日本語を書く、というのが文芸翻訳。一文・一文は、全体としてのイメージを伝えるために、一定の役割をもって書かれているわけで、その役割を果たすように翻訳しなきゃいけない。だから文で切っちゃダメで。

前後の状況を見て”Yes”を「ノー」って訳す場合もあれば、続けて書いてある文章を二つの文、三つの文に分けることもあれば、逆にくっつけることもある。本文には書いてないけど日本語の読者にはこれは説明しないとわからないだろうな、というところにはちょっと説明を加えたりとか。

そんなことをやらなきゃいけない翻訳をしている人にとっては、一文一文でぶつ切りやってるツールに慣れた人の翻訳は、「粗くて見ていられない」「お前の日本語は壊れている」という風に見えてもおかしくない。「そんなことをやっていたら日本語が荒れるからやめろ」という意見が出るのはよく分かる。

だから、ジャンルによって求められるスキルというのは結構違っている。

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