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石橋啓一郎氏に聞く「プロ翻訳家」のお仕事(2)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

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先週に続き、翻訳家で筆者の中学時代からの友人である石橋啓一郎氏との対談を続けていく。

石橋氏はウェブのIT記事などでも翻訳者として名前が出ているが、同時に名前の出ない仕事として、多数のゲームなどで翻訳を担当している。

翻訳というと最近は「自動翻訳」が話題になることが増えているが、その質がまだまだなのは皆さんもご存知の通り。だからプロの翻訳家がいるのだが、一方、プロが技術支援もなく、辞書だけで翻訳作業をしているか……というとそういうわけではない。多人数が関わる商業的な翻訳では、ツールによる作業支援が欠かせない存在になっている。

今回はその支援ツールがどのように使われているかを聞いた。そこからは、翻訳という仕事の流れと、それがゆえに起きる「翻訳の質の低下」の原因も見えてきた。

なお、友人同士の間柄なので、ちょっといつもの対談よりくだけた話し方になっている点は、ご容赦を。(全5回予定)

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■メインジャンルはIT翻訳とゲーム

西田:基本的なところを一応確認しておきたくて。

「ジャンルによって専門性がある」という話があったけれども、今あなたがやっている翻訳のジャンルって、基本的にはITとゲームという理解でいいの? ゲームもいろいろあるじゃない? どういう部分か、言える範囲で教えてもらえれば。

石橋:僕の場合はITと言っても特殊なケースかな。

僕のメインの仕事は、これはもう名前が出てるのでオープンにできるけど、「ZDNet」とか「CNET」など、ニュースサイトの記事の翻訳。

西田:そうね。よく名前を見てます。

石橋:これは名前つきで出せる、翻訳の業界の中では珍しい仕事。記事を一本単位で引き受けて、納品する。

で、けっこう短い納期なんだよね。記事には鮮度があるから。

西田:それはそうだよね。

石橋:それがたぶん6割以上を占めていて。残りは、今はもうゲーム翻訳だけ。記事翻訳の隙間をゲーム翻訳で埋めてる、という感じ。

ゲーム翻訳でも……そうねえ……まあ、スポーツゲームとかレースゲームが多いかなあ。個人的に好きなのはRPGだけど。たぶん、世の中のボリューム的にもそういうのが多いのと、たぶん取引先の側も、今までに何度かレースゲームとかスポーツゲームを担当したのを知ってるから、プロジェクトマネージャーが「こいつにもう一回任せとこう」という風に判断してるのはあると思う。

西田:なるほど。

石橋:ただ、最近、ゲーム翻訳はとっても翻訳者の数が足らないらしくて。

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