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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #36

「噂の、最悪な兄貴な」

「はい。しゃくれチンカス野郎です」

「しゃくれてんの?」

「いや知らないっす。その兄貴とはもともとそんなに仲良くはなくて、というか普通に嫌いやったらしいんすよたつやは。なんかいつも偉そうやし、バリ兄貴面してくるから」

しゃくれているかを知らないのにしゃくれと決めつけている理由を知りたいところだが、本題とは関係無さそうなので黙っておくことにした。

「まあどこにでもおるなそんな兄貴は」

「で、とにかくおもんないらしいんすよ。けっこう俺お笑いわかってんで、みたいな感じで話してくるらしいんですけど」

「それもおるな。どこにでも」

「はい。もうほんま、致命的にサブいらしくて。見てられないぐらいサブいらしいっす。で、それイジったら怒るし、みたいな。ヤバないっすか? でまあ、そんな奴やから別に相手にはしてなかったらしいんですけど、唯一、小さい時に初めてサッカーを教えてくれたのがそのしゃくれた兄貴やったんですって」

「あ、やっぱしゃくれてんねや?」

「いや知らないっす。で、その頃兄貴もなんか不動産関係の事業始めるかなんかで、国に金借りようとしてたらしいんです。あるじゃないっすかそういうの」

「公庫?」

「それ系っす。その、国に金借りるときに、事業計画がどうとか、どういうプランで返していくとか説明できないといけないんですよね?」

「返済能力があると思わせなあかんからね。その事業でちゃんと利益が出るって説明できなあかん」

「それで、その事業のために自分でこれだけ資金を準備したっていうことも開示せなあかんらしいんすよ」

「通帳見られんねやろ? 貯金0やったら審査通れへんもんなたぶん」

「そうっす。で、たつやの兄貴はその通れへん状態やった」

「なるほど。で、たつやに『金貸して』か」

「そうです。要は、審査さえ通せば国から金は借りれるんで、審査の期間だけ口座にまとまった金を入れときたいってことで」

「いくら言ってきたん?」

「600万っす」

「うーわ、さっぶ」

「ね? サブいでしょ? 口座にある額がデカければデカいほど借りれる金も増えるんですって」

「なるほどな。で、貸したん? たつやは」

「はい。まあ返ってくるし、一応そのサッカーに出会うきっかけを与えてくれた恩があったからって、本人は言ってましたけど」

「やってもうたな。ちなみにやけど、返ってきたん?」

「きたと思います?」

「まあ、そういうことよね」

「それどころか音信不通っすよ? なうで」

「えっぐ」

「見つけたら殺すって言ってました」

なるほど。つまり、と思う。
兄貴に対する恨みを引き出すことができればたつやの裏の顔が覗く。
だがそれは、私の求める顔と少し違う。事情が事情なだけに、むしろ共感や同情を誘ってしまう。
煽るなら、金を貸してしまった失敗談とサッカーに対する熱い思いだ。

ササノにはホームレスにまつわる人格が形成されたエピソードがあり、たつやには兄貴を絡めた苦い過去があった。
今この場に、2つの情報が並べられた。
さて、これらをどう利用するのが最適か。

どう思う? と丸山に訊ねるが反応は芳しくなかった。

少し考え、思いつきを口にしてみる。

「お互いがお互いの触れられたくない部分をつつき合えばいいんか」

「ケンカさせるってことですか?」

「違う。陰で言わすねん」

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